100 殿下がパーティに?


「まあ、そう睨むな。

どのみち、お主を実質的に縛れるものなどないのだからな。<転移>で逃げられるだろうし。


お主に望むのは、この国に何かあった時に、助勢をお願いしたい。

最悪の場合、王太子だけでも助けたいからな」


「それは戦場でも、でしょうか?」


「そう言うこともあるだろう。

だが、戦闘は強制せん」


実際には戦闘に参加しないわけにいかないだろう。

そんな事は俺でもわかる。


「ならば断らせていただきます」


「なぜだ?国賓として招くぞ?生活も保証するし、給金もはずもう」


「お金の問題ではありません。そもそも当面生活するだけのお金は十分持っています。

私は戦争に参加しません。これは絶対事項です」


「お主が住んでいる場所が戦闘になってもか?」


「その場合は状況によりますが、可能ならば、身近な者を伴って逃げるでしょう」


「その身近なものに王太子を含めて欲しいのだが」


「私はしばらくしたら、旅に出ます。なので、国に縛られたくありません」


「ふう、ならば、メアリーならどうだ?

あれなら、まだ若いし、そなたも悪い気はしないであろう。

王家の血が残るのなら、最悪メアリーでもなんとかなる」


「殿下を旅に連れて行けと?

好きでもない女性のために、自由を捨てろと?」


「別に結婚しろと言っているわけではない。

冒険者のパーティに入れると思ってくれていい。パーティなら同行してもおかしくないだろう。もちろん、そなたに情けをかけられるのが一番だが。

あれも、護身術くらいは心得ておる。自分の身くらいは自分で守れる」


「冒険者に必要なだけの戦闘力、経験を持っているとは思えません。

それに、旅の途中でザパンニ王国に何かあった場合、殿下は戻ることを選択されるでしょう。その時パーティを組んでいれば、結局俺たちも王都に戻って、戦争に巻き込まれることになります。

なので、条件としては先ほどと変わりません」


「ふむ、平行線だな。

とりあえずお互いの主張はしあった。

時間をおいて、もう一度話がしたいと思うがどうかな?」


「すでに断ると考えている話を繰り返すほど暇をしておりません。

再度の話し合いも断らせていただきます」


「そうか。なら仕方あるまい。

今日はもう遅い、泊まっていくがよい」



確かに長く話していたので、今から屋敷に戻っても夜中になってしまう。

なので、泊まっていくことにした。



夜、メアリー殿下が部屋に来た。


「ちょっとお話しいよろしいですか?」


「何でしょう?昼間の話ならお断りしたはずですが」


「まあ、そう言わずに付き合ってくださいな」


「それでなんですか?」


「私をあなたのパーティに入れてもらえませんか。

どのみち、婚約者もいなくなりましたし、今結構自由なんですの。

それなら、旅に出るあなたについて行っても面白いと思いましたのよ。

別にパーティは恋人である必要はないんでしょう?」


「裏にある思惑が透けて見えて面白くないんですが」


「まあ、そう言わずにお聞きください。

あなたにもメリットのある話ですのよ。


あなたが旅したら、絶対に何かに巻き込まれるでしょう?

Sランクというだけでも貴族からなんらかの勧誘があるでしょうし。

私と居れば、貴族関係の厄介ごとは大抵解決できますわよ?これでも王族です。


あなたと旅に出るなら、監察官の役職をもらえます。

これは、貴族が横領していたり、横暴な真似をしていたりした時に、強制的に捜査できる役職ですわね。

実際に犯罪を犯している必要はありません。そして、捜索された時に、何の問題もない貴族などほとんど存在しませんわ。

それに、監察が入るというだけでも不名誉ですし。


それだけもあなたのメリットになりますでしょう?」


確かに貴族のちょっかいは面倒だ。

しかし、身も守れないお姫様を抱え込む訳にいかない。


「それに私、魔法の方にも自信がありますのよ?

冒険者で言えば、Bランクだと言われていますわ。


もちろん、旅の常識などは知りませんが、自分の身くらい守れますわ」


おっと、断る条件を消して来た。

さすが王族、考えてることはお見通しか。

にしても、魔法使いか。

確かに、俺のパーティには魔法を使うものがいない。(俺は除く)

Bランクの魔法使いならパーティの強化につながるだろう。


問題は、国に何か起こった時の対応だな。

殿下は国に何かあったら、戻るっていうだろうし。


「先ほどお父様から聞きましたが、私が国の危機に戻るだろう、との事でしたが、それはありませんわ。

私の役目は王家の血を残す事。国が危機に瀕していたら、むしろ戦争を避けるべきですわ。それが血を残すという事ですもの。

なので、私に求められているのは、ただ生き延びる事ですの」


なるほど、血を残すというのはそういう考え方もあるのか。

あと断る理由としては、、、ああ、大事なことがあった。


「私と結婚するとか言ってましたが?」


「ええ、ただ、それはあくまで可能であれば、ですわ。

大賢者の能力を引き継げる可能性があるんですもの。チャンスを逃す手はありませんわ。

なんなら、今から抱いていただいてもいいのですよ?」


寝室を見ながら言わないでほしい。


「それはお断りします」


「そう、残念ですわね」


あまり突っ込んでこなかった。

本当に『可能であれば』なのかもしれない。


しかし、殿下をパーティに、か。

陛下のお誘いは断ったが、そういう条件ならば、検討する価値がある。


「少し考えさせてください。

それと、明日で結構ですので、魔法の腕を見せてもらいたいです」


「もちろんですわ。ではまた明日」





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