074 才能はありません


それからは毎週末になると、Fランクの仕事を受けてもらった。


猛犬の散歩、郵便配達、公園の清掃、パン屋の売り子、など、Fランクらしいものばかりだ。

Fランクの依頼なので当然だが。

俺も半年前には毎日こなしたものだ。


さて、俺は今、リリア様と応接室で談話している。


「リリア様、今まで稼いだお金を出してください」


リリア様は袋に入ったお金を机に広げた。


「いくらありますか?」


「大銅貨で24枚ですわ」


「そんなもんですね。

さて、ここに金貨1枚あります。

これはリリア様からいただいている、毎月の報酬です。


リリア様が金貨1枚稼ぐのに、どのくらいかかりますか?」


「1年はかかるかと。。。」


俺の言いたいことが分かってきたようだ。


「そうですね。それも、衣食住に使えば、もっと長くかかるでしょう。


リリア様は、王都にきたときに、この屋敷を購入し、俺に月に金貨1枚払うと言いました。

金貨1枚がどれだけ稼ぐのが難しいか、わかりますよね?」


「はい、お金を稼ぐと言うのを甘く見ておりましたわ。

こんなに大変だったなんて」


「リリア様は週末だけですが、冒険者は毎日やるのです。

そして少しづつお金を貯めて、剣や防具を買い、ようやくゴブリンなどの討伐依頼を受けるのです。


リリア様にはまず、その辺を分かって欲しかったので、街中の依頼を受けてもらいました。


これからはEランクの薬草採取なども受けていきましょう」





「マリア、リリア様の<剣術>はどの程度だ?」


「はい、学年で中の上くらいでしょうか。

冒険者としてなら、Fランクです」


「伸びしろは?」


「体力さえつけば、Eランクはいけるかと。

あとは、実力者との模擬戦が必須だと思います」


「そうか、なら放課後、リリア様にはランニングして体力をつけてもらおう。

それとマリアとの模擬戦だな。模擬戦は授業で行うときにリリア様と組めばできるだろう。

あと1年半しかないからな、多少ハードでもいいくらいだぞ?」


「了解しました」


「あと、魔法の方はどうだ?

そろそろ<身体強化>を覚えて欲しい所だが」


「はい、お嬢様は魔法にはあまり興味がないようです。

<生活魔法>は一通り使え、<土魔法>の初級が使えるようです」


「<無魔法>はどうだ?<身体強化>は使えそうか?」


「<無魔法>は初級レベル。<身体強化>は来月習う予定ですので、まだわかりません」


「そうか、現状では、依頼どころか、旅に連れて行くのも難しいな。

リリア様の頑張り次第だな。残りの時間で腕が上がることを祈ろう」




「クレア、警備状況はどうだ?

不審な奴はいないか?」


「毎日何者かが様子を見ているようだが、他の警備をしているものに聞くと、貴族同士で見張りあっているようなので、いちいち気にしていたらキリがないとか。

とりあえず、敵意のあるものはいなかったな。、、いや、いなかったです」


口調を気にしているようだ。

人前でだけ気にしてくれればいいんだが。

まあ、普段から使ってないと、いつかボロが出るからな。





リリア様の方は様子見として、自分の方も先に進もう。

<調合>は上級ポーションまで作れるようになった。

<鍛治>もミスリルの剣が打てるようになった。本職には及ばないが、数打ちの剣よりマシだろう。


そこで俺は、<彫金>にも手を出そうと思っている。

<鍛治>で剣を作ったときに、鍔や鞘が寂しいのだ。


<彫金>の本は買ってきてある。

昨日全部読んだ。

そして、俺の前には、金属の板とハンマーとタガネがある。


まず、金属のペンでデザインを傷つけて行く。

そのうえをなぞるように、タガネで彫って行く。


何か、花のようなオブジェクトが描かれた。

簡単な花びらと葉っぱだけの絵を描いたはずなのに。


俺はもう一枚取り出して、犬の絵を描いた。彫った。

何か、宇宙人的な不思議な絵が彫られていた。


まずい。これはスキルじゃなくて、デザインセンスの問題だ。

<彫金>のレベルはデザインと関係ないので、上げれるだろうが、そんなレベル上げやりたくない。


俺は急いで、職人街に向かった。

他の職人のものを参考にしようと思ったからだ。


細工師の店に来て、いろいろ見て回った。

簡単そうな形のものをいくつか購入し、職人にデザインなどはどうしているのか聞くと、まず紙にラフデザインを描いて、それを見ながら彫って行くらしい。

センスが無くても、ある程度決まった形のものは努力次第でできるらしいが、センスが無いと、それ以上に進めないらしい。


終わったかも知れん。


一応、屋敷に帰って、紙に絵を描いてみるが、先ほどのクリーチャーのような絵しか描けない。

職人さんのところで買ったものを参考に、鉄板を彫っていると、線が曲がりまくって、何が書かれているのかわからない物が出来上がった。


うん、俺には才能ないわ。<彫金>はレベル上げだけしてよう。





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