029


俺は今、王都の西にある草原に来ている。

奴隷の二人はオーク狩りに行っているので、今のうちに魔法の練習をしたいのだ。


俺はまず、1ポイント使って、<風魔法>を空中に放つ。

上空に斬撃が放たれる。気のせいか、前より強くなっている気がする。

ここまでは予想通りだ。


俺は一つの仮説を立てた。

HPもMPも最小単位は1ポイントではないのじゃないか、というものだ。

コンピューターであれば、何かあったときに1ポイントプラス、という計算を行うが、怪我が徐々に治っていくことはあっても、段階的に治ることはない。

つまり、HPやMPはデジタルではなく、アナログではないか、と言う事だ。


何が言いたいかと言うと、0.1ポイント単位での魔法の駆使ができるのじゃないかと言う事だ。

今の俺の<魔力操作>はlv12だ。それに対して魔法のlvは10だ。

魔法を使い始めた頃は、普通に使ったら、暴風と言える風が起こったのに、使う魔力を少なくしたら、そよ風に変わった。

ドライヤーなどの魔法を作ったのも良い思い出だ。

当時は魔力もそれほど高くなかったので、おそらく、10ポイントを1ポイントに節約したのだと思うが、今の制御力なら1ポイントを0.1ポイントに出来るかもしれない。


俺は少しとか、爪の先とか、曖昧な表現を使わず、10分の1を想像して魔法を練る。

魔法を解き放つと、やはり斬撃が飛ぶが、先ほどよりも小さいように思える。

MPを確認すると、消費されていない。

おそらく、消費されたのが、1ポイント未満だったのだろう。


これは俺の仮説が立証されたと思ってもいいだろう。

俺はそよ風が起こせるくらいまでなろうと、少ない魔力の使用に没頭するのだった。




「やっと出来たぞ!」

俺はそよ風の吹いている手元を見る。

何時間も掛けて、少ない魔力の制御を練習したのだ。

感覚的には0.1ポイントどころか0.01ポイントくらいの使用量だ。


俺は早速ドライヤーの魔法を試す。

そよ風が起きて、、、炎が巻き起こった。


慌てて魔法を消すが、袖が少し焦げてしまった。

髪も少しチリチリしてるかもしれない。


<風魔法>は制御できるようになったが、<火魔法>は別途練習が必要らしい。

<魔力操作>はできているはずなので、同時操作のスキルが足りないために、<火魔法>の制御が甘くなったのかもしれない。


「とりあえずは火魔法の制御からだな」


俺は宿で用意しもらったサンドイッチを囓りながらひとりごちた。


続けて<火魔法>の練習もしたいところだが、もう帰らないと、奴隷達が帰ってきてしまう。

魔法の練習は秘密なので、心配させてしまうことになる。


俺はそそくさと街に帰った。




「ご主人様!今日は20匹倒しました!」


褒めて褒めてと言わんばかりにクレアが報告してくれる。


「そうか、怪我はなかったか?

怪我したら、ポーションを使うんだぞ。

怪我は放っとおくと病気になるからな」


「はい、大丈夫です。怪我はしてません」


「それならいいんだが。

それじゃ、ギルドに報告に行くか」


ギルドに所属しているのは俺だけなので、討伐報酬をもらいに行くのは俺が一緒でないといけない。

奴隷も登録できれば、こんな面倒なことしなくて済むのだが、奴隷は所有物なので、勝手なことを出来ないようにするため、登録を認めていないのだ。


「キャシーさん、今日の分お願いします」


「はい、ジンさん。20体ですね。

いつもありがとうございます。

定期的にオーク肉が手に入るのはありがたいです」


「それと相談なんですが、家を借りたいのですが、不動産屋か何かありませんか?」


「家を借りるんですか?

それならギルドでも少しは扱っていますよ。

ギルド員が死亡した場合に、買い取る場合もありますので。


オークの処理をしますので、少しお待ちください」


ギルドでも不動産を扱っているらしい。

なんでもやってるなギルド。


「お待たせしました。

家ですね。応接室でお話ししましょうか」


俺たちは奥の部屋に案内される。


「それでジンさん、どんな家を考えていますか?」


「そうですね、部屋が3部屋以上、風呂付き。裏庭があるといいですね」


「それだと。。。」


キャシーさんはファイルを見ながら探してくれる。


「これなんか如何でしょうか?

元Bランク冒険者の持ち家で、引退を機に故郷に帰るということで、ギルドで買い取ったものになります。

部屋は5部屋。風呂もついています。

お値段の方は大金貨3枚になります」


「買取だけですか?

借家などは?」


「申し訳ありません、冒険者はいつ死ぬかもしれない職業ですので、借家はやってないのです。

これは他の不動産に行っても同じです」


「そうですか、それでは建物を見せてもらっても構いませんか?」


「もちろんです、ただ私は受付業務がありますので、1時間ほどお待ちいただけますでしょうか?」


「その位なら大丈夫です。

酒場で暇を潰しているので、声をかけてください」


俺の中では購入は決まっているのだが、家が古かったり、建て付けが悪かったりすると、工事の必要がある。

全体の金額を確認してからでないと、即決は出来ない。


俺は依頼表を見たりしてから、酒場で果実水を飲んで待っていた。


「お待たせしました。

ひと段落つきましたので、他の人に代わってもらいました。

すぐに、見にいけますか?」


「もちろんです。よろしくお願いします」



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