時の流れは歪であればいい。

葵流星

時の流れは歪であればいい

「まった、いつまでそんな仕事やっているんだ!」

「…すいません。」

「うるさい、ささっとやれ…。まったく…これだから。」

「あの…。」

「なんだ…。」

「いえ…。」

「ささっとしろ…。」


時計はすでに回っている。

休暇を申請したが、やはり貰えなかった。

そして、退職願も届けたにもかかわらずやはり…ゴミ箱に捨てられていた。

私は、いつまでここに居ればいいんだろう。

退職代行サービスを利用してでも辞めるべきだ。

昨今、そんなことを叫ばれる。

しかし、私はすでに歳を食い過ぎた気もする。

今いる仕事もいつか人工知能に喰われる。

まだ、いつかはこないがきっとここには居られない。

本当に、このままでいいのだろうか…。


私の居る会社はブラック企業だ。

女性はおらず、男性しかいない。

上司の彼は、人手不足だから仕方ない、頼む…そんな言い方なら…ダメだな。

社会は犠牲を求めている…誤字だ。

会社は犠牲を求めている。

私は、負けたのだろうか?

では、なんで生きているのだろうか?

敗北者は殺される…それならさぞ良かったことだろう。

金に押しつぶされる。

私の人生はそんな生き方だ。

まして、趣味に使える金も無かった。

最初から資産をたくさん持っている人だけが人生の勝利者だ。

そう思えていた。


その時までは…。


また、朝が着て私は会社に向かう。

いっそのこと、潰れてしまえばいいのに…そんな事を思いながら私は電車に乗る。

そして、どうしたかな…。

目の前が灰色だった。

服の色と、人の体が混じり合うそんな嫌な配色だった。

私もその灰色の一部になりつつあった。

ああ、そっか。

私は死ねるのかと思えた。

不思議とそれが、うれしく思えた。


私は、静かに目を閉じた。

三途の川への船賃くらいは持っていかないと。

そんな、忘れかけていたユーモラスがあった。


けれど、私は死ななかった。

灰色が、鮮やかな色に戻っていき、人の姿を取り戻していた。


まるで、時間が戻ったように…。

そう時間は戻って行った。


そして、また灰色になって分かれて繋げて分けて…。


それからだった。

私の人生は変わっていった。

正確には、無理やり変えた。


私は過去に向かった。

自分の現在を良くするために…。


小学校の時に嫌なクラスメイトが居た。

けれど、その前に上司を殺した。

上司が成長する前、彼が子供の時に私は彼を殺した。

手に感触が残った。

私はそれより前に時間を移動するとやはり上司は居た。

また、手に力を入れ彼を殺す。

今度は、さっき1人目の上司を殺した時間に戻る。

彼は、そこには居なかった。

どうやら人を殺せるのは一度だけだとその時、わかった。


灰色が見える世界に戻るとやはりまだ私はその会社にいた。

そして、いつしか少しずつ私は裕福になっていた。

けれど、それまでの記憶はなかった。

私はそれまでの記憶を補完するように自分を見た。

彼は、どこまで幸せになれるのかそれを見てみたくなった。

悲恋、損失、喜び…それを繰り返す中で自分にとっての最適解を取らせていく。

それが私の運命だった。


けれど、私は未来には行けなかった。

あの時の時間から先には行けなかった。


でも、それも今日で終わりにした。

私は自分を幸せにできたからだ。

過去にいくら骸を作り上げたとしても過去のものでしかないからだ。

未来は過去を殺せても、過去は未来を殺せないからだ。


ずっと、こうして居よう。

少なくとも私が生きているうちは…。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

時の流れは歪であればいい。 葵流星 @AoiRyusei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る