あの子の笑顔が見たかった

読ミ人オラズ

願いは叶った?

 今日僕は、ママと一緒に引っ越し先の家にやって来た。


「ケンタ。今日からここが私達のお家になるのよ」


 この家は、ママとママが先週結婚したパパさんの新居なんだ。築30年の古い家だけど、庭もあるし部屋も沢山有るんだって。でも


「家の前の道路は車がよく通って危ないから、絶対に飛び出しちゃだめよ」


って、ママに何度も注意された。ママは心配性だな。


 僕達が家に着くと、パパさんが出迎えてくれた。


「ケンタ。彼が私達の新しい家族よ。さあ、ご挨拶しましょうね」


 ママはわざわざ説明するけど、僕はそんなことわかってるから、パパさんに挨拶したら


「ケンタくんは、いつもお利口さんだね」


 パパさんはそう言って、僕の頭を撫でてくれた。

 僕はもう何度もパパさんに会ってるから、パパさんには慣れているけど、この家にはまだ会ったことのない小さな女の子がいるんだ。

 その子はとっても人見知りで怖がりだそうで、僕はまだ1度も会ったことがないから、今日初めて会えるのを楽しみにしているんだ。


 パパさんに案内されて僕達が家の中に入った瞬間、小さな影が見えた。

 それは柱の陰から頭を出して、こっちを覗いていたんだ。

 でも僕と目が合ったとたん、慌てて部屋の奥へ走って行っちゃった。


「ミルキー! こっちへおいで!」


 女の子の名前はミルキーだって! 最近流行りのキラキラネームというやつだね。

 パパさんが女の子を呼んだけど、全然姿を見せてくれない。


「ごめんね。ミルキーは怖がって自分の部屋に戻っちゃったみたいだ」


 パパさんにそう言われて、ちょっと残念……

 でもこれから一緒に暮らしてたら、絶対に仲良くなれるよね。



   ◇ ◇ ◇



 僕が家の中を見て回っていると、玄関の方へ向かう影が見えた。

 僕が静かにその影を追跡すると、それはミルキーちゃんだった。


 その時、ママが表の庭を掃除していたから、玄関が開いていた。


 ミルキーちゃんは1人で外へ出ようとしてたから、僕は後ろから声を掛けたんだ。

 僕は驚かせるつもりはなかったけど、ミルキーちゃんは僕の声にビックリして、外に走り出してしまった。


 家の前の道路は、車がよく走ってるから危険だ!

 ミルキーちゃんが外へ飛び出してすぐ、僕も慌てて彼女を追いかけた。


 キキキキー!!


 車のブレーキの音が!


 ミルキーちゃんは恐怖で動けない! 


 ドン!!



   ◇ ◇ ◇



 僕は朦朧とする意識の中で声を聞いた。


「ケンタ、ケンタ…… しっかりして……」


 ママが泣きながら僕に声を掛けている。その横でミルキーちゃんも悲しそうな顔で僕を見つめていた。


 良かった…… ミルキーちゃん、無事だったんだね!


 僕はミルキーちゃんを身を挺して庇った。


 ママ、ごめんね…… 僕はどうやら死んじゃうみたいだ……

 でも、ママには優しいパパさんがいるから大丈夫だよね。


 僕に心残りがあるとすれば


 ミルキーちゃんと仲良くなりたかったな…… 1度でいいから、ミルキーちゃんの笑顔が見たかった……



   ◇ ◇ ◇



 ここはどこなんだ?


 僕は何故か意識がある。そして目の前には―― ミルキーちゃん!?


 どういうことだろう? まさかこれは、輪廻転生!?


 僕を見つけたミルキーちゃんが、物凄く嬉しそうな笑顔で僕に向かって走って来たんだ!


 ああ、神様が僕の最期の願いを叶えてくれたんだ!


 僕の目の前に来たミルキーちゃんは、僕に抱きつくようにして――

 僕の頸動脈に噛みついた。



   ◇ ◇ ◇



 きゃあぁぁぁ!


「ミルキーちゃん、そんなものをここへ持ってこないで!」


「あははは! ミルキー、ネズミを捕まえたのかい? ミルキーはそれをケンタ君にお供えしたんだよ」


 仏壇の前にはネズミの死骸が置かれており、仏壇に飾られた写真の前には、ちょこんと一匹の猫が座っていた。


 写真の中の犬は、どこか複雑な表情をしているように感じられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あの子の笑顔が見たかった 読ミ人オラズ @papipon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ