6600万年前からの手紙

拝啓

 この手紙を読んでいるあなたへ


 夕焼けを二重三重に重ねたくらいの空が目に焼き付いています。

 巨大な岩石が空を舞い、流る溶岩は川の如く。

 陸上でまさに敵無しであった私にとってそれは、初めて体験する恐怖……だったかも知れません。


 背後に迫る赤から逃れるために誰も彼も走りました。

 地面に突き刺さるエッジの効いた岩石。

 地球の悲鳴かのように裂ける大地。


 次第に空を厚い雲が多い、毎日顔を見せていた太陽は隠匿され、代わりに与えられたのは感じたことのない寒さと闇。

 光の届かない大地に草木は枯れ、それを頂く生き物は朽ち、それを頂く私たちも死にました。


 ええ、死にました。


 骨となり、地に埋まり、幾星霜紡いできた血脈もここで途切れるのかと思うと、私はこの世界に生きた爪痕を残せたのだろうかと不安を抱くことになりました。

 死んだ後の世界など、いや、自分が死ぬことなど考えてもみなかった私ですが、死んでみて、ええ、そう思うようになったわけです。


 だからこうやって手紙を書きました。

 いつか誰かがこれを読んで、こういう奴がいたんだなと思って貰うだけでも、私が生きてきた意味があったのではないかと思うわけです。


 なんともな結びになりますが、あなたの今後がどうか幸せでありますように。


                                   敬具


                                白亜紀後期

                          獣脚類ティラノサウルス

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