亀とグッピー

 頭の上を悠々自由に泳いでいるアイツ。


 赤い尾ひれを泳がせながら、今日もこの狭い水槽で暮らしている。


 いや狭いのは俺だけか。


 アイツにとってこの水槽はそう狭くもないのかもしれない。


 俺の顔よりも小さい身体をして、身体を右に左に翻して何が楽しいのやら。


 俺ときたら身体を反転させるのも一苦労だ。


 そう考えると偶にアイツが羨ましくもある。


 いや、偶にではないな。


 いつもアイツに憧れている。


 あの赤に俺は惚れている。


 悠々気儘に泳ぎ舞うアイツは艶やかに俺を誘っている……訳はないか。


 アイツはただ泳いでいるだけだ。


 悠々満帆に泳いでいるだけだ。


 目下の俺のことなど気にもしていないだろう。


 ただの石くらいにしか思っていないかもしれない。


 だがそれでいい。


 俺に気を使わず、自然体なアイツが一番良い。


 俺が好きなのはそういうのだろう。


 赤を心に抱えながら、赤の下で俺は生きる。

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