リョナホール

吟野慶隆

リョナホール

 自家発電しようとして、ズボンのチャックを下ろし、そこから息子をまろび出させた、ちょうどその時に、自室のドアがノックされたので、弟は、ぎくり、とした。

「あんた、今いい? 話があるんだけど」

 姉の声だった。弟は「ちょっと、ちょっと待って」と言いながら、慌てて息子をズボンに押し込むと、チャックを上げた。

 再生前のエロ動画を表示させているノートパソコンのディスプレイを、ぱたん、と閉じる。それから、「はい、どうぞ」と言った。できるだけ平静を装ったが、なにしろ、いざ、やろう、としていた自家発電を邪魔されたため、少し苛ついた声になってしまった。

 ドアを、がちゃり、と開け、姉が入ってきた。彼女は、「あんた、今日、誕生日でしょ」と言った。

「そうだけど……」弟は右側頭部を、がりがり、と掻いた。「それが何か?」

「プレゼント、持ってきてあげたわ」

 苛立ちが吹き飛んだ。「え……」嬉しさのあまり、声が上擦った。

「ありがたく受け取りなさい」

 姉はそう言うと、平べったい胸を張って、ふんす、と鼻を慣らした。派手な柄の紙と真っ赤なリボンで丁寧に包装された物体を差し出してくる。直方体の上面に、半円柱を取りつけたような見た目だ。

 弟はそれを受け取った。「あ、ありがとう」本心から出た言葉だった。

 姉は、「話はそれだけ。じゃあね」と言うと、部屋を出て行った。弟はさっそく、しゅるる、びりびり、と包装を外してみた。

 それは真っ赤なボディで、中央より少し奥側に、銀色のラインが五本、入っていた。半円柱の片方の底面には、丸い穴が開いている。基本的に硬かったが、穴の周囲や内壁は、ぶにぶに、と柔らかかった。

「こ、これは」弟は絶句した。「オナホールじゃないか」

 なぜ、姉はこんなものを、誕生日プレゼント、として渡してきたのか。そもそも、高校生である姉は、こんなものをどこで手に入れたのか。

 いやいや。そんな疑問は、あとで直接本人に訊けばいい。せっかくもらったのだ、さっそく使ってみるとしよう。

 弟はそう、心の中で呟くと、ズボンのチャックを下ろし、そこから息子をまろび出させた。そして、ローションを入れるのも忘れて、そいつを穴の中に、ずどん、と奥まで突っ込んだ。


 いっぽう、姉のほうはというと、自室で、ぶつぶつ、と呟いていた。

「あの子、わたしのプレゼント、喜んでくれたかなー……もしかしたら今頃、さっそく使ってるかしら? 充電しておいたから、使えないことはないと思うけど」

 姉はそう言うと、机の上に置かれていた、「電動鉛筆削り機:どんな太さにも対応できるラバー素材」と書かれた空箱を、ゴミ箱に捨てた。


   〈了〉

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