不完全係数度

エリー.ファー

不完全係数度

 答えではない。

 しかし。

 質問以下である。

 論文を捨てて、研究に没頭したい。

 私はいつも思う。この時間は、何なのだろう。

 無意味だ。

 価値がない。

 研究が世のため人のためになるのは、偶然が作用することろだが、人間が深く関わるとろくなことにはならない。

 何を思って、何を考えて、何を欲して、金をつぎ込んでいるのかということに全くの興味はないが、それを繰り返し行うことに意味があると思うなら、私以外で試せばいい。

 不満である。

 非常に不満である。

 改善されない問題を、いかに改善するか、ということを永遠考えさせられているようなものだ。

 不毛である。

 何故、このことに誰も何の、興味も持っていないのだろうか。

 甚だ疑問である。

 いつか、誰かが語っていた。

 このままでは、この研究施設も大学も、国も終わる。しかし、そう言われながら世界は回っている。つまり、世の中の本質というものは、世の中に対して何の影響も及ぼすものではない、ということである。

 彼女は亡くなった。

 確か、助教授のセクハラだったか、レイプ未遂だったか。

 そのようなことが身に降りかかり、心を病んでしまって自殺したそうだ。

 余りにも不憫である。という言葉で一応、締めくくっておく。

「先生。」

「はい。」

「私の論文の評価について質問なんですが。」

「どうぞ。」

「最高評価を有難うございます。」

「論文にしたのであって、君にしたわけではありません。」

「あぁ。その。分かりました。でも、この論文を書いたのは私なので。」

「君ではありません。」

「え。あ。いやいや。ここに私の名前が書いてあるじゃないですか。」

「君にそのレベルの論文を書くことは不可能です。」

「めっちゃ頑張ったんですって。」

「句読点の位置も、使う漢字の種類もいつも提出する論文と微妙に位置が違います。」

「じゃあ、そこまで分かってるのに、なんで高評価をくれたんですか。」

「論文の最後に書いたではありませんか。」

「はい、書いてありました。」

「そういうことです。」

「納得いきません。それとは別に評価をしてください。」

「切り離すことは難しいですね。」

「おかしいです。正当な評価を受けたいです。」

「正当ではあると思いますが。」

「何を正当と定義するかということでしょうか。」

「評価者が正当であると語ったことが、全てです。これは、正当です。」

「横暴です。余りにも、横暴です。」

「正当な横暴です。」

 私は窓の外を眺める。

 渡り鳥がさかさまに浮かび上がり、木片が宙を舞っている。

 紫色の空に雲が浮かんでいるが、もう、それも今日が最後になるだろう。

「もう、いいではないですか。論文の評価なんて。それより静かに世界の終わりを待ちましょう。もう、意味がありません。」

「意味を見出すのは、外部的要因によるべきでしょうか。」

「物理的、もしくは精神的な、内部、外部という定義に余り価値はありません。」

「でも、ここで学んだことは、人生を大きく変えました。これは立派に外部的要因ですし、劇的であることも実感しています。」

「だったらもういいでしょう。」

「何がですか。」

「これ以上、何を学びますか。」

 外で何かが爆発する音が聞こえる。

「勉強と学びの違いが分かりますか。」

「すみません先生。分かりません。」

「勉強は他者が決める領域、学びとは自身が決める領域です。多くの大人が子供に対して勉強をしなさい、とは言っても、学びをしなさい、と言わない理由がそこにあります。」

「だから。だから。だから、先生ともっと話したくなるのに。」

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