3日目

操縦席に座り、舵を取る。

恒星こそないが、小さな星や宇宙ゴミは大量にあるようだ。

目的の達成まであともう少し。

船になるべく傷をつけないよう、慎重に暗闇を見渡した。


危険地帯を乗り切り、自動運転に切り替えてやっと一息つくことができた。日記にこの努力を記そうと紙を手に取る。

ふと、違和感に襲われた。

その正体に気づいた時、私は唐突に恐ろしくなってしまう。

紙が一回りほど縮んでいるのだ。

わかっていたことだが、やはり見たことのないものを体験すると人は恐ろしくなるのだな。


鉛筆は変わらずそこにあった。

芯はまるで縮んでいない。

美しい直線が暖かい目でこちらを見ている。

私は震える手で彼をなぞり、そして小指に話しかけた。


「ありがとう友よ、我が最愛の友よ、もし願いが叶うのなら、もう一度だけ君と海へ行きたかった。」


それから私は小指を食し、誰にも読まれることの無い日記を書くため、鉛筆を手に取った。


『3日目、特に変化なし


もうすぐ宇宙の果てに着くだろう

私の任務は遂行された

私の人生は遂行された

我が人生に後悔などない

この船に乗ったことに後悔などない

ただ

私の言葉を伝える術は

この鉛筆では足りないようだ』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る