第4話 ことわざ
プリンとスプーン、煮出しておいた麦茶をお盆に載せて持っていくと、ちゃぶ台の上には画用紙がひろげられていた。
マイが興奮ぎみに、真堂のまえに絵を差し出している。
どうやら昨夜に描いたものらしい。
「これね、マイが描いたの! これ、レイちゃんだよ!」
「……? 私は、こんな綺麗なドレス、持ってないわ」
「へー! でもこれレイちゃんなんだー!」
舞はまったく気にしていない。
真堂もまったく動じていない。
話が通じているようで、すれ違っているかのように見えて、しかしやっぱり会話は成立していた。
「頭についてるのは、宝石なんだよ」
「高そうね」
「王子さまからのプレゼントだから、へーき」
現実的だった。
それにしても意外だ。
無表情ながら、真堂は子供に対してとても優しい感じがした。
失礼な話だが……、高校での印象からはなかなか想像できない図である。
「わたし、王子様の知り合いはいないわ」
「へー! じゃあこれから会うんだね! いいなぁ」
「きっと舞ちゃんも会えると思う。……あと、この細長いのはなに?」
真堂が指差したのを見て、俺は眉をしかめた。
だがそんなこと、マイには関係がない。
「これ? これは、レイちゃんのおうちだよー!」
「おうち……、家のこと?」
「そー! お姫様が住んでるお城なんだー」
「お城というより、なんだかマンションに見えるけれど」
「うん! お兄ちゃんが、お姫様が住んでるんだって言ってたのー! レイちゃん、お姫様でしょー」
「……陣くんが?」
「一番上に住んでるだよね! ほら、あのでっかいやつの!」
舞が窓の外を指差した。
真堂が釣られて見る。
俺も同様に視線を向ける。
窓の外には50階建てのタワーマンション。
こんな話、俺たち兄妹にしか伝わらない内輪話だ。
お盆を置くことも忘れて、『いや、それはただの世間話だから……』と口を挟もうとしたときだ。
真堂が俺を見ながら、自分の体を抱くように腕を組んだ。
「……申し訳ないのだけれど」
あきらかな警戒心がみてとれる。
さきほどまでの柔和な感じが一気に消えた。
「どうした……?」
「そのプリンを食べる前に、なぜ私の家を知っているか、説明してくれる?」
え?
「……なんて?」
「なぜわたしが、あのマンションの最上階に住んでいるのを知っているのか、教えてと言ったの。わたし、階数は学校にしか教えてない」
理解するのに、たっぷり十秒は使った。
「……まじで?」
こんなときに使う諺(ことわざ)を、誰か教えてくれ。
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