奇梟の徒《ききょうのと》

夏艸 春賀

声劇台本

《諸注意》

※なるべくなら性別変更不可。

※ツイキャス等で声劇で演じる場合、連絡は要りません。

※作者名【夏艸なつくさ 春賀はるか】とタイトルとURLの記載をお願いします。

※金銭が発生する場合、必ず連絡をお願いします。

※録画・公開OK、無断転載禁止。

※雰囲気を壊さない程度のアドリブ可能。

※比率は男2:不問2の四人台本ですが、男2:女1、不問2の五人台本にも出来ます。ですが女性はセリフ極少になるのであしからず。

※所要時間約40分。




《役紹介》

安良城 誠明(アラキ セイメイ)

37歳、180cm、男性、AB型。

黒髪、後ろ髪が肩甲骨迄の長さ、黒い瞳。

一人称俺。冬摩の幼い頃からの友人。

旅館『猫屋敷』雇われ主人。



芦耶 冬摩(アシヤ トウマ)

37歳、170cm、男性、A型。

焦げ茶短髪、薄茶の瞳。

一人称俺。

墓守の血筋。年若い妻と娘がいる。



楊貴(ヨウキ)

見た目30代、不問、176cm。

紅い瞳、金の髪は長く後頭部辺りで結ってあるものの尻迄伸びている。全体的に毛先に行くにつれ銀に変わる。

旅館の建つ山々の土地神。



祥貴(ショウキ)

不問

真っ白な梟、紅い瞳。

人語を話せる。翡翠の数珠を首に掛けている。

常に楊貴の傍らにいるが、人型になると紅い瞳の銀の髪、短髪。155cm程、見た目は20代。



その他

喫茶店女店員】見た目20代後半、女性(セリフ数:4)

喫茶店店長】見た目30代、男性(セリフは一つなので、男性役のどなたかで被り推奨)

旅館女将】見た目40~50代、女性(セリフ数:4←ほぼ悲鳴)




《配役表・4人》

安良城(男):

冬摩(男):

楊貴(不問)・旅館女将又は、女店員:

祥貴(不問)・女店員又は、旅館女将:



《配役表・5人》

安良城(男):

冬摩(男):

楊貴(不問):

祥貴(不問):

女店員・旅館女将(女):







↓以下本編↓

────────────────────





安良城M

九尾きゅうびの狐が護る土地にある旅館、『猫屋敷』に雇われ始めた頃。俺は傷付いた白い梟を助ける為に、その土地神と契約をわした。数年後にその契約はまっとうされ、契約のあかしがあった左目は強制的に戻された。数年間共に過ごした梟は、俺の前から姿を消した。

 それから2年間、俺は白い梟の妖を探し続けている。」



【間】



《夫婦の営む喫茶店内》



安良城

「おう、待たせたなぁ、すまんすまん」


冬摩

「待たせたな、じゃねーだろ……久し振りな上に、何時間ここで待ったと思ってんだよ」


安良城

「……さぁ?」


冬摩

「そんなんだからみんな離れてったんじゃねーの。少しは時間に余裕見て行動しろって前に言ったよな? 大体お前、……って、聞いてるか?」


安良城

「あぁ…聞いてる聞いてる。(小声で)……少し、似てるな……」


冬摩

「うん? なんか言ったか?」


安良城

「いいや、何も。ここ、煙草平気か?」


冬摩

「あー、大丈夫だとは思うが……」


喫茶店女店員

「大丈夫ですよ! 灰皿どうぞー!」


冬摩

「ありがとう。そうだ、コーヒーおかわり貰えるかな?」


喫茶店女店員

「はい、かしこまりました!」


安良城

「なら俺は玉露で」


冬摩

「は?」


安良城

「まぁ、流石に無いか……」


喫茶店店長

「……あ、ありますよ……」


冬摩

「はぁ!?」


安良城

「本気で?」


喫茶店女店員

「いいえ、ありません」


冬摩

「……だ、だよな。喫茶店だしな」


安良城

「ふっ。なら、コーヒーで」


喫茶店女店員

「はい、かしこまりました!……店長ー? ふざけてないで、コーヒー二つ、お願いしますね!」


冬摩

「…はぁ………」


安良城

「仲が良い事で。……それで?」


冬摩

「……え?」


安良城

「相談事、って。何だ」


冬摩

「……おい、いきなりかよ…」


安良城

「その為に来たんだからなぁ。それにしてもノリの良い店長だ。店員も可愛い」


冬摩

「あ、あぁ……この、喫茶店は夫婦でしてると聞いた」


安良城

「ふぅん。……あぁ、良い香りだ……」


冬摩

「……落ち着くんだ、この香りを嗅いでいると。感じていられると、安心する」


安良城

「あぁ、ここのコーヒーは旨いだろうな。……で、いつからだ」


冬摩

「………ッ…」


安良城

冬摩とうま


冬摩

「……助けて、くれないか…(消え入りそうな声で)」


安良城

「……あぁ。で、いつから、自覚したんだ」


冬摩

「……」


安良城

「自覚は」


冬摩

「ッ……分からん。だが……感触が、残ってるんだ。……指先に、引き裂く様な感触が…」


安良城

「……」


冬摩

「おかしい、とは、思ってたさ。妙に傷の治りは早いし、腹は満たされてるはずなのに、空腹感があったり。他人たにんの血の匂いに反応してしまったり、して」


安良城

「そう言えば、高校の頃も似た様な事言ってたな」


冬摩

「……そう、だったか?」


安良城

「あぁ、言っていた。その空腹感、今はいつが一番強くなるんだ?」


冬摩

「人が寝静まった頃……、うし三つ時…」


安良城

「この間、会った時にはそんなに酷くなかったろ」


冬摩

「この間って、何年前の話してんだよ、誠明せいめい


安良城

「ありゃー、お前の爺さんが亡くなった時か? するってぇと……んー?」


冬摩

「俺が22の時だ」


安良城

「…あぁ……そうか…」


冬摩

「俺はもう、その頃には多分発症していた」


安良城

「……」


冬摩

「発症、してたせいで。俺は……気付かない間に。……俺が…」


安良城

「違う。お前の爺さんはやまいだった、それだけだ」


冬摩

「違わねーだろ、じゃなきゃ!」


安良城

「……違う。お前じゃない」


冬摩

「違わねーんだよ!! あれからお前、ずっと連絡付かねーし! ようやく居場所分かったかと思ったら、またどっか行っちまったとか言われるし!! 何してたんだよ!!……俺の、体の事知ってて、分かってて、なんで……ッ、……なんで、今頃……ッ!!」



安良城M

「目の前の友人は悔しさのあまりテーブルを拳で叩く。

 彼の病名は『異墓病いもうびょう』。

 現在、不治ふじとされている病。土葬された遺体を喰らう妖怪に噛まれ、唾液が傷口に触れると感染するとされている。感染するのは子供のみと言う厄介やっかい代物しろもの。成人している者は例え傷口を舐め回されようと死を迎えるのみ。

 成人するまで発症する事は無いが、噛まれた時点で不死の体になっているせいで、負傷すると異様に治りが早くなるとされている。」



冬摩M

「俺が感染したのは、恐らく父を亡くした時。

 小学生に上がった頃、墓守はかもりをしている祖父の手伝いをしていた父に付いて行った時、妖怪に襲われた。肩口に噛み付かれ、噴き出した血液を舐め上げられた瞬間、体中が沸騰ふっとうするような熱さを感じた。

 叫んだ俺を妖怪から引き剥がした父に、妖怪は標的を移したのだけは覚えている。

 翌日から1ヶ月程寝込んだ俺にはもう父親はいなかった。」



【間】



《山の祠前》



楊貴

「ショウか、どうした?」


祥貴

「いや……死んだ筈の人間が、生きてた」


楊貴

「……嗚呼、先日喰った鬼のせいじゃろうな」


祥貴

「先日って。2、3日前の事みたいに言うなって。何年前の話してんだよ」


楊貴

「……さぁのぉ。妾やショウにとっては歳月としつきは余り関係無かろう」


祥貴

「まぁ良いけどさ……その生きてた人間が、安良城あらきに助け求めてた。知り合いだったんだな」


楊貴

「ほぉ……して、どうする。今一度、彼奴あやつに会いに行くのか?」


祥貴

「…いや……多分、向こうから来るんじゃねぇかな。我では力が多分足りねぇし。ヨウの力借りに来る気がする」


楊貴

「今までも何度か来ていたのじゃがなぁ。ショウが会いたがっていなかったでは無いか。故に此処には来れぬ様、結界を張り続けておるのだぞ」


祥貴

「……そ、だっけ?」


楊貴

「妾のかたわらにいてくれるのは良いが……人の生は短い。意地を張らずとも良かろう…」


祥貴

「けどさ……安良城あらきの力、ほぼ我が吸い取った様なもんだぞ? どんな顔して会えば良いんだよ…」


楊貴

「……ほっほ。ショウは気不味きまずくて会えずにいたのかえ。恨みもつらみもねたみも無く、純粋にお主に会いたがっておるよ、彼奴あやつはな」


祥貴

「そう、かな……」


楊貴

「で、無ければ……探し続けたりなどせぬよ。恐らく人とはそう言うものであろう。お主の中に溜まった澱みや穢れを浄化し、妾の元に戻れる程にまで、世話をしてくれた彼奴あやつに。お主はどう、応えてやるつもりじゃ?」


祥貴

「……結界を、いてやってくれないか…」


楊貴

あいわかった」



【間】



《旅館・安良城の自室》



楊貴

「ふむ、眠っておるな……嗚呼、随分ずいぶんと腑抜けた顔じゃのぉ……」


安良城

「…ん?……ッ!お、お前、は……!」


楊貴

「ほっほ。久しいのぉ、小童」


安良城

「おま……何で……ッ祥貴しょうきはどうした!!」


楊貴

「威勢が良いのぉ。息災であったか? 小童」


安良城

「……何、しに来た」


楊貴

「そう構えるでない。お主と話をしようと思ぉてな」


安良城

「話?」


楊貴

「お主に友人が殺せるか?」


安良城

「!」


楊貴

「妾が力を貸せば、何とか出来るやもしれぬぞ?」


安良城

「そうだとしても……なんでいきなりそんな事を言う。お前は、俺から祥貴を……」


楊貴

「奪ったのでは無い。かえして貰っただけじゃ」


安良城

「……かえ、して?」


楊貴

「嗚呼、人のごうは人にしか癒せぬ。生きている内は。故にお主の力をショウに吸い取らせ、癒した。ショウは妾の一部となっておるのだよ……ほれ」(銀色に変わっている部分の髪を見せる)


安良城

「…それ、は……祥貴の髪の色……なんだ、どう言う事なんだよ。それで祥貴はどこにいるんだ!」


楊貴

「ほっほ、わめくな小童。……嗚呼、いや。小童と言うには成長し過ぎておるか…?」


安良城

「どうでも良い、祥貴はどこだ」


楊貴

「……妾の、腹の中……」


安良城

「っ!!」


楊貴

「──では、無い。ショウは、祠におるよ。お主が今一度会いたいと願うならば、叶う」


安良城

「本当か?!」


楊貴

「妾は嘘は言えぬ。だが、お主の友人の事を片付けてからにしては貰えぬか?」


安良城

「は? なんで!」


楊貴

「……ショウは、妾の生きるかて。そう易々やすやすとお主に明け渡す事なぞ、出来ぬ。会えば、恐らくお主の元へ行きたがる事になるじゃろぉからな。そうなっては……妾は……」


安良城

「……」


楊貴

なぁに、少しの意地悪じゃ。何時いつでも会いにれる様にはしておいた、来るか来ないかはお主が決める事。……さて、夜明けじゃな。妾はれにて」


安良城

「……なぁ」


楊貴

「何じゃ?」


安良城

「お前の名前、聞いてなかったよな」


楊貴

「知らずとも困らぬじゃろぉて」


安良城

「知らねぇと困るだろ、その…なにかと」


楊貴

「……、ほほほ…」


安良城

「な、なんだよ」


楊貴

「お主、意外とお人好しなんじゃな。い奴よ」


安良城

「はぁ!?……別に、深い意味は…!」


楊貴

「ほほ、判っておる。……妾の呼び名は、楊貴ようき。力が欲しくばぶが良い」


安良城

「よう、き…?…」


楊貴

「……人に、名を告げたのは何年振りかのぉ……ではな、セイメイ」


【間(少なめ)】


安良城

「…──!!……は、ぁ…夢…?」


安良城M

「夢、とは思えないほど現実味があった。楊貴ようき、と名乗ったあやかしはこの世の者と思えないほどの容姿に、膨大な力を持っていた。あれがこの土地一帯をべている者だと実感した。あの妖ならば、俺の友人を救う事が出来るのだろうか。

 あの妖、楊貴の住む祠まで行けば、祥貴しょうきに会えるのか。」



【間】



《冬摩自宅》


冬摩M

誠明せいめいに相談した後、帰宅した俺は妻にも病気の事を話した。妻は『私に感染うつして治るならそれでも良い』とは言ってくれたが、そうはいかない。まだ年若い妻、それに手のかかる年頃の愛娘。

 妻には念の為に病院で検査をして貰った。俺の体のせいで、娘に移っている可能性を否定出来なかったからだ。

 専門の医師は誠明せいめいから聞いていた。妻も娘も陰性いんせい。俺の病は、人から人へは感染かんせんしないと医師は言う。」



《安良城自室》


安良城M

異墓病いもうびょうは、愛する人への思いが高まった時に噛み付く事で感染かんせんする。普通に人間としての暮らしの中では決して感染うつる事は無い。

 冬摩が結婚し子供がいる事を聞くと、一応医師に診せるようにと教えておいた。成人していた妻よりも子供の方が気になったが、遺伝子には引き継がれないらしい。」



《山の祠前》



祥貴

「……我は、人間が好きだ。安良城あらき以外の人間も、嫌いじゃない。人と接するのは楽しい。だからつい遊びに行ってしまってた。そのせいでけがれを身に受けた上に、ヨウを泣かせた。だから……せめて」


楊貴

「せめて、何じゃ?」


祥貴

「うわ!!?……え、いたのかよ! いつから!?」


楊貴

「最初から。其れに妾は泣いてなどおらぬぞ」


祥貴

「泣いてたろ。誤魔化す為に水浴びしてたみてぇだけど、我は気付いてた。だけど声掛けらんなかった」


楊貴

「……そう、か。繋がった直後だったからのぉ。妾のが流れ込んでしまったのじゃな……すまぬ」


祥貴

「なんでヨウが謝る。寂しがらせてたのも、悲しませたのも、我だ。ホント、ごめんな? これからは……」


楊貴

「(被せ気味に) 彼奴あやつと、ぉて来た」


祥貴

「え? 安良城に?……いつ!?」


楊貴

「先日」


祥貴

「なんで! 結界外れたとか、安良城なら分かるだろ? それなのにわざわざ?」


楊貴

「……嗚呼、そうじゃった。お主に渡すモノがあってのぉ」


祥貴

「は?……何。つーかなんで話逸らすんだよ」


楊貴

「逸らしておらぬよ、妾の用事が先じゃ。……此れに、妾の力を少々流し込んだ。此れを使えば彼奴あやつの友人を救えるじゃろ?」


祥貴

殀瑞ようすい……て、これは人間が使えるもんじゃ……え…?」


楊貴

「…ショウ……───て、おるよ……」


祥貴

「は?……う、うわあああ!!!」




【間】



《安良城自室》


安良城

「(寝息)」


祥貴

「ぅぁぁああああ!!」


安良城

「ぐえっ!?」


祥貴

「いっ……たくねぇ……え? あれ? え??」


安良城

「……重…」


祥貴

「どわ!? すまん!!……て、安良城あらき!?」


安良城

「ッ! し、祥貴しょうき?!」


祥貴

「え、え……なん・・ぐえっ」


安良城

「(祥貴を思い切り抱き締めて)……祥貴しょうき……」


祥貴

「う、ぐ……く、苦し……安良城あらき、苦しい……」


安良城

「……会いたかったぞ、祥貴」


祥貴

「うん、分かった、分かった、から……! 離せっての!」


安良城

「っ…あぁ、すまん……と言うか、お前。突然降って来たよな…?」


祥貴

「……ハッ! そうだよ、ヨウ、ヨウ!!……あ、あれ…?」


安良城

「どうした?」


祥貴

「……ヨウの、気配が遠い……」


安良城

「ヨウ? 楊貴ようき、の事か? 気配……あぁ、全く感じられんな…」


祥貴

「なんでだ……なんで……我は、ずっとそばにいるつもりで……!」


安良城

「どういう事だ?」


祥貴

「あいつ……! 糞!! なんでこういう事しかしねぇんだよ!!!」


安良城

「こういう事ってなんだ。楊貴の力はお前が持ってるだろ」


祥貴

「はぁ!? 安良城に分かるのかよ!?」


安良城

「分かるさ、それを譲り受けて来たんじゃないのか」


祥貴

「ちげぇ!! あいつ……無理矢理、我をここに吹っ飛ばしやがった!」


安良城

「は? なんでそんな事」


祥貴

「あいつは!……あいつはっ……わざと、独りになりやがって…!! んのやろ…」


安良城

「けど、喚べば来るって言ってたぞ?」


祥貴

「来ねぇ。……いや、来れねぇ、と思う」


安良城

「なんでだ?」


祥貴

「これがあるから」


安良城

「ッ! なん、だこれ……」


祥貴

殀瑞ようすい。ヨウの力を流し込んだ……所謂いわゆる妖力の塊」


安良城

「そんなモン、初めて見たぞ……」


祥貴

「おっと、触らない方が良いぞ? 人間用に出来てねぇし。それに、ここに飛ばすって事は……クッソ!!」


安良城

「いって! 殴るな」


祥貴

「くそったれ……これで全部解決しろって事だよ!! どぉせ? わらわの力は与えたとかなんとかほざくんじゃねぇの!?」


安良城

「おい、祥貴しょうき……殴りながら言うな、痛い……」


祥貴

安良城あらきの傍につかえろって事なんだよ!!!」


安良城

「……は?」


祥貴

「だから!……我は、ここの土地神から切り離されて! お前が死ぬまで! 傍にいろって事!……て、え、どこ行くんだよ?」


安良城

「……少し、出掛けて来る」


祥貴

「いや、出かけるのは身支度してっから分かる。だから、どこ行くんだよ!」


安良城

「祥貴は、待っているか?」


祥貴

「だから、どこに行……」


安良城

「(被せ気味に) 楊貴ようきの所へ行く」


祥貴

「はぁ!? 無理無理! 結界張られてる上に気配も分からねぇ、行ける訳ねぇだろ!」


安良城

「それでも、行く。祥貴しょうきと再会出来た事は嬉しいが、楊貴ようきと切り離したかった訳じゃない」


祥貴

「……安良城あらき、お前…」


安良城

祥貴しょうき、強制的につかえるのと、正式に契約するのと、どちらが良い?」


祥貴

「そりゃあ……強制的じゃねぇ方が良いけど……でも、ヨウは!」


安良城

「祥貴は、楊貴の事が大事だろう?」


祥貴

「そう、だけど……」


安良城

「だったら俺は正式に申し込みに行くまで」


祥貴

「……ま、待てよ! 我も行く!!」




【間】




《旅館前》



冬摩?

「……あー……せい、めい?」


安良城

「あぁ、冬摩とうまか。どうした、こんな朝早く……今忙しいんだが…──いいや、お前、冬摩か?」


冬摩?

「……ふひゃ」


祥貴

安良城あらきけろ!!」


安良城

「くっ!」


冬摩(悪鬼)

「ふっははぁ! 来てやったぜ、ぇえ!!」


祥貴

安良城あらき、こっち!!」


安良城

「あぁ!!」


冬摩(悪鬼)

「逃がすかぁぁあ!!!!」


旅館女将

「やれやれうるさいねぇ……なんの騒ぎだい?」(旅館内から出て来る)


冬摩(悪鬼)

「おやぁ、餌……見つけたぁ!!」


旅館女将

「ヒッ! ば、化け物!?」


冬摩(悪鬼)

「いただきまあす!!!」


旅館女将

「ぃやぁあ!!」


安良城

ばく!」


祥貴

「どりゃ!」


冬摩(悪鬼)

「ぐう!?……ヴヴ、やるな……誠明せいめい


祥貴

「女将さん! 早く逃げて!!」


旅館女将

「ひゃあああ!!」(旅館内に逃げて行く)


冬摩(悪鬼)

「餌が、消えたなぁ…──ア、そこにいるじゃないかァあぁあぁあぁあぁあぁ!!!」


安良城

「!!」


祥貴

「安良城! 山に行くぞ!!」


安良城

「……ああ!!」


冬摩(悪鬼)

「むわぁあてぇえええぇえ!!」



《山の祠前付近》



祥貴

「くっ、この辺のはず……くっそ、やっぱ結界が…!」


安良城

「……ッ、やめろ冬摩! お前の体は傷付けたくない!」


冬摩(悪鬼)

「ほざけ! 俺は今、猛烈に腹が減っているぅ! ガアアア!!!」


安良城

「こンのやろ…ふうばく!!」


冬摩(悪鬼)

「おっと、どぉこ狙ってやガンだ、セイメイィイイ!!」


安良城

「ちょこまかと……ッく、ぅ!」


冬摩(悪鬼)

「ひゃははぁ! 人間はもろい! 俺は今……誠明せいめいを……捕まえたぁ!!!」


安良城

「ぐッ…ぅ……」


祥貴

「んのやろ! 離せ!!」(殴る)


冬摩(悪鬼)

「ぐふおあ!!」


安良城

「祥貴! 手ぇ出すな!!」


祥貴

「ッ、やだ! 安良城あらきが死ぬとこなんざ見たくねぇ!」


安良城

冬摩とうまは人間だ!! 今は病魔におかされ、暴れてるだけの! 人間だ!」


冬摩(悪鬼)

「そぉだぁ、俺は人間……ニン、ゲン?……こぉんな姿なのにかぁあ!? (安良城に襲い掛かり木に叩き付ける。)」


安良城

「……ッ! ぐ、あ…」


祥貴

「安良城!!」


安良城

「祥貴、来る、な……ぅぐ。……よ、うき……」


冬摩(悪鬼)

「なァ、誠明せいめい……俺は…人間か? 鬼のような姿になっても、人間と言えんのか……?」


安良城

「…ぐ、う……人間、だ。お前は、俺の友人の……冬摩、だ!」


冬摩(悪鬼)

「ほぉお……お前のはらわたえぐり出してもまだ、それが言えるか? (腹部に爪を突き立てる)」


安良城

「な、に・・ぐっうあああ!!!」


冬摩(悪鬼)

「ひぃひゃはは!……良い悲鳴じゃねーかァ……もっと楽しませ…ん? なん、だ……この…」


楊貴

「……全く…人が気持ち良ぉねむっておったのに……」


祥貴

「ヨウ!!!」


冬摩(悪鬼)

「なんだ! お前は……ッ!……誠明せいめいが、いない…!?」


楊貴

「セイメイは、妾の祠のかたわらじゃ」


冬摩(悪鬼)

「祠など無……かったはず、いつの間に……!」


楊貴

「……ショウ、お主…何をしておる」


祥貴

「なにって、ヨウに、会いに……」


楊貴

「愚か者!!」


祥貴

「ひっ!」


冬摩(悪鬼)

「ぎゃ!!!」


楊貴

「セイメイも愚か者じゃ。折角せっかく妾の力を与えてやったものの、使わずに来るとは。……しかも…」


冬摩(悪鬼)

「ヒッ」


楊貴

「この様な不味い供物くもつを持って来おって……」


冬摩(悪鬼)

「ぎ、ぁ……ア…」


楊貴

「腹の足しにも成らんが……致し方あるまい…」


安良城

「…楊、貴……待て…」


祥貴

安良城あらき! 動くな、手当が出来ねぇ……」


楊貴

「何を、待てと?」


安良城

「そいつ、は……俺の、友じ・ん…ッ……」


楊貴

「だから、何じゃ」


冬摩

「うッぐぁ……ッ!」


安良城

「く、やめろ、楊貴ようき!」


楊貴

「妾は、何もしておらん。ただておるだけ」


冬摩

「ぁあ!?……く、ぅ…い、やだ……」


安良城

「……冬摩とうま…!」


冬摩(悪鬼)

「ヴヴッ……〜ぅぐぅう……きさま、が……土地神か…」


楊貴

如何いかにも。本体は既に腹の中ぞ、悪鬼」


冬摩

「……た、すけ…て」


楊貴

「……人間、お主の事は、セイメイに任せておる」


冬摩(悪鬼)

「ッぐ、あぁぁぁ…ッあ、ぐぅ……」


楊貴

「悪鬼。其方そなたは何を望む? 宿主を喰い尽くすか、れとも」


冬摩(悪鬼)

「……カ エ リ タ イ……」


楊貴

あいわかった」


冬摩(悪鬼)

「グ、ギァアアアアアァァァ……ッ……」


安良城

「と、冬摩!?……く、楊貴、何を」


楊貴

「──…のぉ?……ショウ…妾は、眠っておったのだよ……」


安良城

「は?」


祥貴

「……はい」


安良城

「え?」


楊貴

れを叩き起しに来るとは。……良い度胸をしておるな、ショウ。其れに小童共」


祥貴

「はい、ごめんなさい」


冬摩

「……」


楊貴

「人間。狸寝入りは妾には効かぬぞ」


冬摩

「はッ!……はい。あの、すみません……」


安良城

「ん?」


楊貴

「ショウ、何故なにゆえ舞い戻った」


祥貴

「それ、は……安良城あらきが正式に契約するって、言ってくれたから」


安良城

「あぁ、そうだ。それで部屋出たら冬摩とうまが……痛ッ」


祥貴

「あぁもう、動くなって言ってるだろ。出血止めれただけで傷は塞がり切ってねぇから……」


楊貴

「あれだけ時間をやったろう、まだ塞げぬとは。……ショウ。お主、癒しのじゅつは不得意じゃったか?」


祥貴

「え?……あー、えーっと……」


安良城

「あぁいや、割と下手……」


祥貴

「ばっ、言うなって!」


楊貴

「ほぉ? 成程……」


冬摩

「……あの、ありがとうございました……憑き物が落ちて体が楽になりました……あの、俺……」


祥貴

「いや! あの、やってる、やってたよ!? 修行はちゃんと! あ、待って、ヨウ、待って?」


楊貴

「こンの……なまけ者がぁぁあ!!!」


安良城M

「物凄い稲光いなびかりが轟いた後、祥貴しょうきが謝り倒す声が聞こえる。冬摩とうまは本当に憑き物が落ちたかのようにすっきりとした顔で、俺にも礼を言って来た。

 病を完全に取り祓う事が出来たのは、結局は神の力のなせる技だった。俺は何も出来なかった。それでも、俺に言って良かったと、満面の笑みを見せてくれた。」




【間】




《旅館縁側》



祥貴

「おい、安良城あらき! どこ行きやがった? あいつ。おーい!!」


楊貴(狐)

「……行かずとも良いのか、セイメイ。家中かちゅうの者共が走り回っておるぞ」


安良城

「大丈夫だろ、今は客人の相手をしているしな」


楊貴(狐)

「ほぉ、客人。妾は通りすがりの狐じゃ」


安良城

「まぁ見た目はな。中身知ってっから…」


祥貴

「あ、いた! おい安良城あらき! こんなとこで何してんだよ!!」


安良城

「何って…、縁側えんがわ煙管きせる吹かしながら茶ぁ飲んでるだけだが?」


祥貴

「だっからって無駄に力使ってんじゃねぇよ!! 女将が血相変えて探してんぞ!!」


安良城

「はいはい」


祥貴

「返事は! 一回で、はい!!」


安良城

「へーい」


祥貴

「〜ッ!! さっさと行け!」


安良城M

「こうして、日常は戻った。

 時たま山から下りてくる白い狐と、子供の増えた冬摩の家族が旅館へ遊びにやって来る。そんな俺の傍らには、口は悪いが根の優しい、白い梟の妖。

 俺の日常は、祥貴の怒鳴り声で始まるのだ。」





終わり





──────────

後書き

※こちらの台本に出て来る病名は架空の物です。

※病名原案者は、言葉の楽園サイト制作、相川コータローさんです。ありがとうございました。

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奇梟の徒《ききょうのと》 夏艸 春賀 @jps_cy729

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