スプーン



ガラスの向こうのあのひとは

いつも笑っているひとだった


笑って

笑って

やっぱり笑って


ガラスの向こうのあのひとは

周りをすくうひとだった


すくって

すくって

やっぱりすくって


すくった分だけ

しずんでいった

だれにも

すくってもらえなかった


いつも笑顔のあのひとの

怒りと涙と苦しみに

だれも気付けていなかった

だれも気付くことがなかった

だれも

気付こうとはしなかった


あのひとは

「笑っているべきひと」だった

「そうあるべし」とされていた


ガラスの向こうのあのひとは

人目を避けて泣くひとだった


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