Endless repeat .

最後に聞いたことばは


「おれと一緒だね」


だった。


それから十数年、わたしは彼の声を聞いていない。


「え? ああ、うん」


あの時なぜもっと上手に返事をしてあげられなかったのか

この後悔にも似た気持ちは、きっと一生残るのだろう。



わたしと彼には同じクセがあった

気に入った曲ばかりを延々と、飽きるまで聴き続けるクセ。

ワンリピート、エンドレスリピート

それに気がついたのは彼だった。


「おれと一緒だね」


そう言ったときの表情は、きっと一生忘れないのだろう

苦しそうに、懸命に笑っていた彼の顔。


「今度そのCD貸してよ」

「いいけど」


約束は果たされなかった

果たすことができなかった。

死んでしまった人に貸せるCDはない

貸すはずだったそのCDを、彼の葬儀で延々と流し続けたことは、わたしの唯一の悪あがきだった

祭壇に向かって一晩中口ずさんだのは、わたしの唯一の罪滅ぼしだった

彼が好きだと言った曲。


わたしは現実から逃げたのだ

彼の死から目を背けたのだ

今もこうして、果たされなかった約束を果たしたふりを続けている。



ずいぶん前に、わたしはあなたを追い越しました。

 お兄ちゃん

  わたしは元気です






〈十九話、二十話から続いて「旅」というテーマの作品たちでした。〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る