大切な人。

Rad Mikey

1話完結編

24歳のとき、私は人生のどん底にいました。


6年付き合って婚約までした彼には高校時代の友達に駆け落ちされ、父親も死に後を追うように母も自殺。


葬式やらなんやらで会社を休んでる間に、私の仕事は後輩に回り、残された仕事はお茶汲みと資料整理。


そしてついに、彼に逃げられた事が会社に広まり、私は笑いものでした。


もういっそのこと死んでしまおう。


そう思ってからは早かった。


アパートに帰り、元彼のネクタイで首吊り用の縄を作り、人生が嫌になったので自殺しますと遺書を残し首に縄をかけました。


「あぁ、終わる。」

私の人生はなんだったのだろう。

立っていた台を倒そうとした時でした。


ガチャ……


アパートの扉が開き、知らない男の人と目が合いました。

その時の私は相当間抜けだったと思います。


でも、その男の人も間抜けな顔をしてこの状況に困惑していました。


「おっ、降りてください!!!」

でも、直ぐにその人は靴も脱がずに部屋に上がってきました。


私を抱き上げ縄を外すと、私をじっと見つめ「部屋を間違えました。」

それだけ言うとその人は静かに部屋を出ていきました。


私は突然の事に脱力し、そのまま眠りにつきました。


次の日、いつも通りに仕事に行き、いつも通りに雑用を任され、いつも通りの時間が過ぎていきました。


ですが、いつも通りでない事が一つ。

私の部屋の前に誰かたっているのです。

それが誰かすぐにわかりました。


その人は私を見ると軽く頭を下げて、私の元に歩いてきました。


「昨日はすいませんでした。」

「僕、あなたの上の階のものなんですが昨日は酔っていて…」

「なにかお詫びがしたいんです。お時間ありますか?」


その人は優しく、素直な人でした。私と同い年だった事もあり、いくつかの飲み屋をハシゴするうちにうちとけていきました。


初対面のはずが、会話が全く途切れないのです。


婚約者のこと、両親のこと、会社のこと……

私が話している間、彼は黙って聞いていました。

私が涙で言葉を詰まらせると、彼は優しく背中を撫でてくれました。


それ以来、夕飯はどちらかの家で食べることになりました。

私は料理が得意ではありませんでしたが、彼の作る料理は絶品でした。


そして、半年が経ち……


私の誕生日がやって来ました。仕事から帰ると、あの日のように彼が部屋の前に立っているのです。


「おめでとう!一足先におばさんだね。」

彼はそう言いながら大きな花束をくれました。

その日を境に、私達は正式に付き合い始めました。私の部屋を解約し、彼の部屋で一緒に暮らし始め、私は彼に甘えて仕事を辞めました。


そしてまたその半年後、100点の答案用紙を見せるようなキラキラした目で

「貰ってきちゃった」

と、婚姻届を私に見せてきました。

私は婚姻届にサインしながら彼に聞きました。

「私もあなたを幸せにしたい。あなたの為なら何でもするから、何か恩返しさせて?」

彼は、少し考えたあと、優しい笑顔で言いました。

「じゃあ、僕より先に死なないで。」


結婚式は挙げませんでした。

相変わらず、ずっと狭いアパートで二人暮しです。

幸せで、本当に幸せで、気が付けば、彼と出会って10年が経ちました。


私はダメな嫁でした。毎日上達しない料理とお弁当を毎日食べさせ、結局子供もできず、彼に甘えてばかりでした。

それでも彼は私の料理を食べてくれて、いつもありがとうと言ってくれました。


誕生日の花束も、忘れた日はありません。

私を気遣い、休日は彼が家事をしてくれました。私は幸せでした。


私は今、病院のベットの上にいます。

先月癌が見つかり、発見が遅く、

良くて一年と言われました。

彼は毎日見舞いに来て、私の手を握ってくれます。







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大切な人。 Rad Mikey @ryota4000

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