僕が本当の君に初めて出会ったのは、強い雨の降る夏の日の午後のことだった。突然の雨。そんな雨の中で、一人で傘もささずに、泣いている人がいた。


 神木芹は、そんなことを思い出した。

 ずっと、昔のこと。

 それはまだ芹が小学五年生くらいのころの話だった。


 なんでそんな昔のことを今になって急に思い出したのだろう? そんなことを考えてみると、その理由はきっと、この間、雨の日の帰り道ですれ違ったあの人の顔を見たからじゃないか、と芹は思った。

 芹はその日、あの小学校五年生のときに、初めて泣いているその子のことを見かけた。その女の子はずっと明るい女の子で、泣いていることなんて一度もない、そんな強い女の子だった。

 だから芹はその女の子が泣いている姿を見て、すごく驚いてしまったことを覚えていた。


 ……あの子の名前。なんだっけ?

 ずっと昔のことで、もう忘れてしまった。


 きっと、あの雨の中で、あの人とすれ違うことがなかったら、今も、あるいは一生、思い出すこともなかったかもしれない思い出。

 芹は今日も降り続いている雨を学校の教室の中にある自分の席に座って、眺めながら、そんなことをぼんやりと一人考えていた。

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