第46話 恋愛と顔とバレンタインと

「ねぇ。3人はバレンタインどうするの?思いっきり試験期間中だけど」


紗織は3人に尋ねる。


「私達はもう合格してるから健司と一緒にどこかに遊びに行く予定」


「佳奈は?」


「私は試験自体は終わってるからなんかしようかなぁって」


「僕は良彦くんに手作りチョコを渡す。僕も良彦くんも試験前だし、羽目を外すのはちょっと待とうかなって」


瀬理はそんなことを言ってるけど、信用できない。絶対になにかやるはず。今回は私のほうが気持ち的に有利なんだから遅れを取るわけにはいかない。


「そういえば、紗織はバレンタイン、なんかイベントあるの?お父さんにあげるとか」


「私?私も良彦くんにチョコあげる予定だけど??なんで?」


「なんではこっちのセリフよ……。まさかそれ、本命じゃないでしょうね?」


「義理よ、義理。当たり前じゃない。心臓の形したやつでもつくろうかしら?」


なんか紗織も性格が変わってきたような気がする……。それに、そういうことを言っても私も麻里もなにも言わなくなってきた。以前なら真剣に怒ってたのに。でもまだ、予断を許さないのよね。拒否反応出るかも知れないし。


「なぁ、良彦。卒業するまでに答えを出すって、やっぱりあれか?ホワイトデーに結果を出すのか?」


「卒業式の後だろホワイトデー」


「あれ?」


「だから、それよりも前に答えを出さないと」


「思ったより早くドラマの最終回が見れるんだな。佳奈と瀬理、どっちだろうなぁ。それにしてもお前だけなんでそんなにモテるのか俺にはわからんよ」


「お前だって彼女出来ただろ?」


「そうだけど、俺たちはもともと夫婦のような感じの仲だっただろ?他の人になにか言われたことないし。正直、俺はてっきり佳奈をすぐに選ぶと思ってたぞ。あれか?大富豪のご令嬢ってやっぱり気になるのか?」


「潜在意識的には完全に無いとは言い切れないけど、俺の気持ち的にはそれはない。純粋に迷ってる。どちらを選んだほうが幸せにしてやれるかなって」


「良彦、そこは幸せにしてやれる、じゃなくてお前が幸せになれるか、だと思うぞ。恋愛ってよく、お前を幸せにするから、とかいうけど、本音はその相手で自分が満足するかどうかだぞ。そこを履き違えるとろくなことにならん。それだけは親友として真面目に忠告しておく」


「わかった。サンキューな」


そうか。バレンタインか。もうそんな季節だな。大学受験もまだ終わっていないからそんなのは忘れていた。佳奈と瀬里はなにかあるんだろうが、紗織はどうなのだろうか。今の状況でなにかあるのか気にするほうが自惚れと言うものだろうな。なんにしても佳奈と瀬里は本命チョコを渡して来るだろうから、その時にどうするのか自惚れとかじゃなくて、考えておいたほうが良さそうだ。


「麻里、ちょっと相談があるんだけど良いかな」


「来ると思った。バレンタインの件でしょ。そんなの自分で考えなよ」


「いや、そんなこと言わずに。どうするかまでは考えたんだけど、それに対しての率直な意見を聞きたくて」


「はぁ?んでなに?何を考えたの?」


「3通り考えた。“①両方共受け取る”“②片方だけ受け取る”“③両方共受け取らない”」


「良彦、あんた馬鹿なの?それを自分で考えろっていう選択肢じゃない」


「まぁ、早まるなって。その中で僕は“①両方共受け取る”を選択しようと思う」


「理由は?」


「バレンタインってそういうものだと思うからだ。ほら、チョコ沢山もらっちゃった、ってやつ、あるだろ?あれだ」


「良彦、本当に真剣に考えたの?」


「考えた末だ。そりゃ最初はもらう時点で決めて、そっちの方だけ受け取るというのも考えたさ。でもバレンタインってホワイトデーに気持ちを返すものだろ?だから基本に戻って、一旦は受け取ることにした」


「で?それで私に何を聞きたいの?」


「顔」


「は?」


「受け取る時の顔、どうしたら良いのかなって」


「なんで?普通にしてればいいじゃん」


「だから、そこを聞きたいんだよ。大喜びしないほうが良いのか、軽く有難うな感じを出したほうが良いのか、全くの素で良いのか。ちなみにこんな感じだ」


僕はいくつかのパターンを麻里に見せてみた。


「馬鹿なの?」


「僕は真面目だよ」


「じゃあ、真面目に馬鹿なの?それ、本気で考えてるなら、相手に失礼よ。ってかなにその準備。なんでもらえるって確定した考えなのよ。流石にちょっと腹が立ってきたわよ?良彦はあの2人に甘えすぎなのよ。ちょっといい加減にしなさいね。一応、私から言えるのはそれだけ。ちなみに、もし、もしもらえるなら素で良いんじゃないの」


「ありがとう。肝に銘じる。」


なんだかんだ言って、麻里は相談に乗ってくれた。日頃の文句も入っていたが。特に僕は2人に甘えている、っていうのは図星過ぎてかなりドキリとした。健司も相談しようかと思ったけど、麻里が健司にこのことを話すだろうから返事はだいたい同じようなものだろうな。


「なにを誰に相談したって、最後に決めるのは自分だからなぁ」


「そうだね。最後は良彦くんが決めることだよね」


「うわっ、瀬里、聞いてたのか」


「聞こえてた、が正しいかな。で、どこから聞いていたんだ?みたいなテンプレは聞きたくない。でも僕は演技なんて要らないかな。正直、素直に喜ぶ良彦くんが見たい」


「そうか。ありがとうな」


「そう。そんな感じ。なにも考えちゃダメだよ。その時になにか分かるかもしれないでしょ?最終的に佳奈ちゃんを選んでも僕は怒らないよ。だって勝手に好きになったんだから。単純に願いが叶わなかっただけ、でおしまいにするよ。だから変に気にしないで。僕は僕なりに頑張る」


「そうか」


「そう。それじゃ、好きだよ、良彦」


瀬里はそう言って去っていったが「良彦」か。一歩踏み出したのかな。それにしても、あの臆すること無く「好き」って言えるのはすごいと思う。逆立場だったら僕は言えるだろうか。


「瀬里、ちょっといい?」


「ん?麻里ちゃんどうしたの?」


「まぁ、バレンタインのことなんだけどさ」


「良彦に僕がどうするかって話?」


「へぇ、“くん”付けるの止めたんだ。佳奈がそう呼んでるから?」


「そう。佳奈ちゃんがそう言ってるから、同じようにしたら僕自身がどう思うのかなって」


「で?どうだった?」


「恥ずかしかったから、“好きだよ”って言って逃げてきた」


「普通、そっちのほうが恥ずかしいと思うのだけれど……。っと、話はあなた達のことじゃなくて、私の事なんだよね。健司にチョコを渡そうと思うんだけど、ちゃんと渡すのって初めてなのよ。今まではチロルチョコとかそういうのを投げつけていただけでさ。その、なんていうか。どう、すればいいのか、さ」


「そうだなぁ。僕はもらった経験はたくさんあるんだけど、実はあげた経験は無かったりするんだよね。だから、もらう側の感想なら」


「ホント?そっちのほうが助かる!で?本命チョコみたいなのを貰ったときってどんな感じだった?」


「んとね。複雑」


「複雑?嬉しいとかそういうのじゃなくて?」


「だって。女の子から貰うんだもん。でも僕は男の子が好きだし。だから複雑」


「あんたに相談した私が馬鹿だったわ……」


「いや、あながちそうじゃないんじゃないかな。ほら、麻里ちゃんと健司くんって異性というより同性の親友って感じじゃない?だから、麻里ちゃんから本気のチョコを貰ったら健司くん、動揺すると思うよ。素直に受け取ればいいのにね」


「そうなのかなぁ。喜んでもらえるほうが作りがいがあるんだけどなぁ。ところで、瀬里は女の子にチョコを貰ってどうしたの?」


「んーっとね。ごめんなさいした。受け取らなかった。受け取って期待持たせる方が罪だと思ったから」


「じゃあ、良彦に受け取って貰えなかったらどうするの?」


「実力行使。無理矢理にでも食べさせる。昔もそうした。泥団子だったらしいけど」


「まぁ、分かったわ。ありがと。私は健司にちょっといつもと違う感じで渡してみる。女の子に思ってもらえるように」


「頑張ってね!僕も頑張るから!さて。僕はどうしようかな。やっぱり手作りチョコで女子力を出したほうが良いのかな。なんか僕、男の子っぽいって思われているだろうし」

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