それはまるで桜のはなびらのように

PeDaLu

第1話 水色と黒髪とワリカンと

小学校時代に、僕はあまり良い記憶がない。だから中学は私立に行ったんだ。詳しくは知らないけども彼女も同じ様な理由で私立中学に行ったみたいだ。僕は共学、彼女は女子校。登校時間が一緒だったので、顔を合わせるけども、なんて声をかけたら良いのか分からないでいた。


「春だなぁ……」


「なんだ急に」


「いや、桜が咲いてて気持ちの良い風が吹いてて、この青空。春と言わずになんというか」


「それもそうだな。春だなぁ」


「なんでも良いけど、あなたたち、掃除をサボらないでよ」


「春だし、掃除するよりも中庭に行かないか?」


「誰の!せいで!こんなことに!なったの!!」


健司は蹴り飛ばされ、僕はヘッドロックを食らった。


「いてぇよ。クッションがないからモロに締まる……」


「うっさい!良彦はいつも一言多いのよ!ヘンタイ!」


「コラァ!お前等なに遊んでんだぁ!なんでこんなことになったのか理解してんのかぁ!」


「あ、はい!すみません!すぐに!」


佳奈はハキハキと返事して、先生が去った後に睨みつけてきた。


「あんたたち!いい加減に!しなさいよ!!」


二人とも蹴られた。女の子が蹴り上げるのは良くないと思うんだ。今日も水色のパンツだ。

ちなみに今日、掃除当番に見事抜擢されたのは、授業中に僕と健司が小突つき合いをしているのを止めさせようと注意してきた佳奈も一緒に遊んでいたと思われた結果である。


「はぁ……なんであんたたちに私まで巻き込まれなくちゃならないのよ。しかも何回目?」


「佳奈が俺たちにちょっかい出してくるからじゃないか?」


健司は飲み放題のメロンソーダを飲みながら、さも当然のように返事をする。


「あ痛て!危ないだろ。ストローがのどに刺さったらどうするんだ」


「そうだぞ佳奈。そんな勢いよく前のめりになるから水色を主張する事になるんだぞ」


僕が間違え探しをしながらそう言うと、佳奈は、なのことか?という表情を一瞬したような気がしたがそんなのを確認する前に頭を叩かれた。


「なんなのよヘンタイ!いつもそうやって覗いてるの!?」


「そんな事はないけど、水色ばかりだなぁとは思ってる。あ、ここ違う。あと3つなんだけどなぁ。健司、分かるか?」


「んあ、どこまで見つけたんだ?」


「この……ああ!もういい!」


佳奈はイスにドカッと座って腕を組んで僕たちを相互に睨んでくる。


「なんだかよく分からないけど、俺たちは許されたようだぞ良彦」


「そのようだな健司。で、残り3つ、分かったか?」


「うーん……わっかんねぇな。ここの店、この間違い探しに本気出し過ぎなんだよ」


「佳奈、分かるか?」


「はぁ……何であんたちは……こことここ!後は分からない!」


「お、佳奈さんきゅー。それじゃ最後の一つを見つけた奴はここの代金払わないって事で。行くぞよー……」


僕が開始の合図をする前に佳奈は指さして最後の一つを見つけた。


「あ、きったねぇ!佳奈知ってたろ!」


「さぁね。じゃ、私は先に帰るから、ここのお代、よろしくね。ごきげんよう。ちょっと良彦どいてよ。出られない」


佳奈が僕の足をゲシゲシ蹴ってくる。


「だから佳奈。水色を主張するなって。ってぇ!」


足を踏まれた。思いっきり。佳奈のスカートが短すぎるのが悪いのに、なぜか僕のせいにされる。


「割り勘かな」


「そうだな。それにしても良彦。なんでお前は佳奈のパンツをそんなに都合良く見れるんだ?」


「なんだ羨ましいのか?」


「いや、そんなことは……羨ましい。なんだかんだで佳奈、可愛いじゃん」


「おお!?健司そうだったのか?そうかそうか。これは応援した方がいいのか?佳奈にそう伝えればいいのか?」


「止めてくれ」


僕は健司に伝票を笑顔で手渡して席を立つ。


「あ!この!くっそ。よけいなことをしたな……まったく」


僕と健司と佳奈はいつもこんな調子で、なんだかんだ一緒にいたりする。小学校時代の記憶が嘘のようだ。

健司にも佳奈にも自分の過去は話してないし、僕も二人の過去は聞いていない。


「はぁ。私なんであんなのを好きになっちゃたんだろ」


佳奈はファミレスからの帰りに本屋に寄って参考書を眺めながら呟いた。


「ん?誰のことが好きだって?」


「え?いや、そのね?って、麻里かぁ。ビックリした」


「まだ告白してないの?」


「してない。ってか出来ない。なんて言えばいいのか分からない」


「あんたたち、近すぎるのよ。それにアレでしょ。告白したら、冗談でしょ?とかそういう展開になるのが怖いんでしょ?そうそう冗談!とか返事しちゃう自分を想像して」


「よく分かるわね麻里」


「長い付き合いだもん。そのくらいは分かるわよ。で、どこの大学にするのかは決めたの?」


「まだ」


「一緒の大学に行かないの?」


「知らないし。あいつがどこの大学目指してるのか知らない」


「え?マジで?そういう話……ああ、あいつら現実逃避して答えなそう」


結局、参考書を買わずに本屋を後にして麻里と予備校に向かう。桜が咲いている。次の桜をみる頃には高校を卒業して大学生になっているはずだ。急な風で髪の毛が顔にかかるのを手で遮る。


「あんたまた水色なの?好きだねぇ」


「もう!麻里までそんなこと言わないでよ」


「良彦にも言われたんでしょ。あんたスカート短すぎなのよ。私みたいにこう……」


麻里は私より少し長いスカートの裾をピラピラさせながらそう言った時にまた強い風が吹いて桜の花びらが舞い散った。


「黒に赤」


「私はオトナの女だし?見られても恥ずかしくないし?」


「ほうほう」


私はスマホを取り出していつものグループページを表示して文字を入力し始めた。


「あ!それは反則!」


さすがに私も友達のパンツの色を報告したりはしない。麻里もそれが分かってて本気にしていない。こんな時間がいつまでも続けばいいのに。大学生になったらバラバラになっちゃうのかな。


「ねぇねぇ、あんな子、居たっけ?」


隣の席に座った麻里が口に手を当てて聞いてくる。目線の先を追うと確かに見たことのない後ろ姿の女の子がいた。


「最前列に陣取るなんてヤル気満々って感じ?」


「おらぁ、そこぉ、なんか質問でもあるのかぁ」


「あ、いえ。すみません」


前回の受講時には居なかった子だ。黒髪のロングヘア。座った後ろ姿でも分かるスタイルの良さ。私もそれなりにって思っているけど、ああいう天井人を見ると自信を無くす。


「あの子、佳奈よりスタイル良かったわね。特にこの辺が」


麻里は胸に手でお椀型を作るように手を上下させる。


「うるさいわね。形の方が大事なのよ」


「へぇ。自信があるようで」


女同士の会話はとても男の子には聞かせられない。特に麻里との会話は聞かせられない。

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