第28話 ダブルアタック

「ブロンズ、だな」


それなりに苦労はしたものの10回転程度で攻略に成功した。代わりにシステムそのものが破壊されたので、このレッドドッグは使うことが出来なくなった。

これは残りの2本がブルー、イエロー、ブラックのどこかにあることを意味していたが、同時に選択を誤るとOPWに戻る手段が無くなることも意味していた。


「レッドドッグがブロンズってことは、残りはゴールド2つ、か。ドッグレベルを考えるとイエロー、ブラックが妥当か?ガル、どう思う?」


「単純に考えるとそうなるな。だが、ここで一つ確認したいことがある。支配の塔のバルコニーに行ってみないか。あそこも7つに区分けされていた。なにか分かるんじゃないか?」


一行は支配の塔のバルコニーに到着した。そして各方面の確認をする。やっぱりな。方向的に7つのエリア中、ブルーエリア以外は区分けされたエリアの方向にある。ブルーエリアのみが7角形頂点の直線上にドッグがあった。


「よぉし!作戦決行は明日!宿のレベルもあがってるだろうからこの人数でもゆっくり出来ると思うわ」


雫が仕切ってブルーエリアの宿に向かう。宿の部屋はレベルが上がりかなり豪華になっていた。これなら全員がゆったり過ごせるだろう。全員が翌日に備えてゆっくりと休養を取った。


「まずはイエロードッグに行くわよ」


今日も雫が仕切ってイエロードッグに向かう。雫が張り切っているときはあまり良いことがない。イヤな予感がする。そしてその予感は的中する。


「これ、システムが別の場所と連携してるだろ。攻撃してもそっちに逃げて修復して戻ってくる。逃げている先でも同時に攻撃しないとダメだ」


モルフェスの意見に皆同意して、ブラックドッグでも同じように牽制を入れてみた。


「やはりそうか。ここと向こうを行き来している。そうなると問題は誰が攻略コンソールを操作するか、だが。4、3に分けれてチャレンジする方法もあるが、誰かが倒れたら回らなくなって討伐に失敗する。人数は多い方が良いだろう。それにこのメンバーで攻略コンソールを触れるのは4人だ。2人に分かれてもその2人に負担が掛かりすぎる。そこで、だ。ID持ちの助っ人を呼ぶ。ジェシカ、ヘルエス、アリーシュにディオールだ」


アリーシュさんにディオールさんはゲームマスターだからIDを持ってて当然として、ジェシカさんとヘルエスさんもID持ちだったのか。しかし、これでID持ちが8人になった。4人ずつに分かれて、攻略に向かえる。

ID無しは俺、ローライン、モルフェスさんにロザリオさんだ。出来ればあと2人、メンバーが欲しいところだが……。


「そうだ。闘技士の主人、ウォルスさんとローズさん、そこに預かって貰ってるサラさんにも手伝って貰うことはできないだろうか」


セルシスとウォルスさんのところに転移し、状況の説明を行ったところ、ウォルスさんもローズさんも是非参加させて欲しいとの申し出を受けた。それよりもジェシカさんとヘルエスさんが生きていること、その2人も作戦に参加することが大きかったようだ。

サラさんはこちらで修行を積み、ある程度のスキルを身につけておりいるようだった。それにOPWの同級生、セルシスからの誘いだったこともあり、是非やらせて下さい、との返事を貰うことが出来た。


「さて。これで14人だ。7人のチームに分かれて同時に攻撃を開始する。戦力の偏りが出ないように分かれるぞ」


ガルの仕切で、メンバー選定を行い、それぞれの持ち場に向かう。


「イエロードッグ準備OK!」


「ブラックドッグ準備OK!それじゃいくわよ!攻略開始!!」



作戦を終えたメンバーは暗い表情でウォルスさんの邸宅に集まっていた。

今回の作戦で、ディオールさん、ウォルスさん、ジェシカさん、モルフェスさん、ローズさんの5人が虚無に落ちた。しかも討伐は失敗。


「強敵だとは思っていたが、これほどとは……!」


ロザリオさんは拳で机を叩く。落ちたメンバーはOPWレベルで100を越える強者だったはずだ。サラは自分を庇ってウォルスさんが落ちたことを悔やんでいる。

レベルを上げる……にしてもOPWではレベルキャップがある。それに相手はシステムそのものだ。スキルは役に立たない。攻略レベルを上げるにはどうしたら……。


「ブルードッグでOPWプレーヤーを攻略して攻略レベルを上げる必要があるわね」


雫はそう言うと、セルシスの転移スキルでブルードッグに移動することを提案した。皆、それに同意したが、俺はなにか腑に落ちない錯覚に囚われていた。


「今、ホログラム通信機で確認したんだけど、レッドドッグが破壊、その他のドッグが部分破壊されたので、このブルードッグ攻略コンソールは全台いつでも使えるようになってるわ。一度に14人が鍛錬可能だと思うわ」


「雫、前回の作戦でID持ちが3人虚無に落ちた。ID持ちは現在5人。バディも入れて10人までの鍛錬しかできない」


「そう……だったわね……。でも攻略コンソールシステムを逆攻略すれば鍵が手に入ることが分かった。私達のすべきことが分かっている状況。出来ることはやってみましょう」


それからというもの、毎日攻略コンソールでOPWプレーヤーへの攻撃を続け、皆、かなりの鍛錬ができたと思う。一度OPWに戻って達成レベルの確認を……。


「そうだ。これだ。腑に落ちなかったことはこれだ」


OPWに戻った面々はロザリオさんの魔術でレベルの確認をしてみた。結果、ロザリオさん自身は140、セルシスが120、雫とガル、アリーシュのカラーマスター3人は不明、その他のメンバーは俺も含めて100だった。


「なんで?なんであれだけ鍛錬したのに、私以外は100で止まってるの?」


セルシスさんが不思議がるのも無理はない。UGWでブロンズキーを手に入れたことで、俺とローラインはレベルキャップが20上がって120になっていないとおかしい。それにヘルエスさんに至ってはレベル1だ。

俺が違和感を感じていたのはこれだ。そもそもUGWにはレベルというものが存在しない。だからその世界で鍛錬を積んでもOPWのレベル経験値は獲得できない。なのに雫はUGWでの修行を進言した。気がついていなかった?いや、今までの経験から雫がそんなミスをするとは思えない。雫は知っていた上で俺たちにUGWでの鍛錬を進言した?


「雫、変なことを聞くが、なぜUGWでの鍛錬を進言したんだ?お前ならレベルの存在しないUGWで鍛錬してもOPWのレベル経験値は獲得できないことは予想していたんじゃないか?」


「そうね。予想はしていたけど、あのときはそれしか方法がなかったじゃない。なにもしないより、思いついた方法はやったほうが良いと思ったのよ。あと。新海くんはなにかと私を疑ってくるけども、なんでなのかしら?」


雫には毎回なにかはぐらかされているような気がするが、今の意見には賛成だ。俺の違和感は思い過ごしか……。


「いや、すまん。俺の思い過ごしだ」


しかし。これでまた八方塞がりだ。システム攻略スキルは上がっているのだろうが、なんらかの指標がないとどれだけの強さになったのかわからない。せめてあのシルバーキーのエリアボスともう一度対戦できれば良いのだが……。

皆が落胆に沈んでいるときに腕のホログラム通信機に通信が入った。


「新海さん?僕です。シュガーです。この前に頼まれていた件、なんとかなりそうです」


「なに?本当か!?」

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