第15話 スキル戦
「眠れないのかね」
「ウォルスさん」
「君は……なぜ雫にバディになるように言われたか知っているかね?」
「分かりません。まさか雫が俺をレッド落ちさせたから、とかですか?」
「惜しいな。君をレッド落ちさせたのはブラックギルドマスターだ。そして君がブルーエリアに落ちたのを雫は確認してバディにしたのだろう。ギルドマスター自らレッド落ちさせるにはそれなりの理由があるからな」
「俺はなぜブラックギルドマスターにレッド落ちさせられたのでしょうか?」
「わからん。しかし、重大な理由があることは確かだ」
俺は思案する。俺に特別な力があるとでも言うのだろうか。それにブラックギルドマスターはオールド・マスター攻略を目指しているのだろうか。
「ウォルスさん、この世界について教えて欲しいのですが、四天王の中でもっとも実力があるのは誰なんですか?やはりブラックですか?」
「いや、当時強かった順に並べるとブルーギルドマスターの雫、イエローギルドマスターのアリーシュ、レッドギルドマスターのガル、ブラックギルドマスターのディオールの順だ。強かったギルドマスターの領地ほど今も治安がよい」
雫がこの世界最強のプレーヤーだった?そのバディが俺?なぜ俺なんだ?俺はなにか特別な存在なのか?なんの自覚もないが。
「だが、それも昔の話だ。雫は長らく戦場を退いている。かたやガルはヴェリントンで現役を続けている。それにスキルを盗んでいるわけだ。既に雫の実力を越えているかもしれない。かなり不利な戦いになるだろう」
翌朝、メンバーはヴェリントン本部に向けて出発した。朝日がローズの名前の通り美しいローズカラーの髪を輝かせている。その後ろをジェシカ、ヘルエス、そして俺が付き従う。
「ジェシカ、その肩に乗ってるトカゲのようなものはなんだ?スキルの一つなのか?」
俺は気になったことを聞いてみた。するとそのトカゲは空を飛びこちらに向き直してこちらを睨みつけてくる。空飛ぶトカゲ……。珍しいな。
「おい、クソガキ。俺はトカゲじゃねぇ。ドラゴンだ。それにクソガキの10倍は年上だ。今後なめた言葉を口にしたら焼き殺すぞ」
「やめなさいな、モモ。弱い者を挑発するものではありませんよ」
ジェシカは穏やかにそんなことを言うが、一番挑発しているのはジェシカだ。赤髪がドラゴンの炎のように見える。
「ふふ……モモ、そのやりとり何回目?知らない人に会う度にトカゲ呼ばわりされてるんだから、もう空飛ぶトカゲでいいじゃない」
ヘルエスは黒髪を指で耳の後ろに流しながらモモに話しかけている。
「だから俺はトカゲじゃねぇ。ドラゴンだ。それにモモって名前も以前から気に入らねぇ」
「いいじゃない。女の子なんだし。可愛いわよ、モモちゃん」
メ、メスなのかよこのグリーンドラゴン……。
「ジェシカ、ヘルエス、そろそろ準備を始めて頂戴」
ローズにそう言われて二人は表情を変えて目を閉じて深呼吸を始めた。
「モモ!お願い」
そう言うとモモは勢い良く空に舞い上がりブルーブレスをメンバーに吐きかける。
「モモの特殊スキル、ダウンスペーススキルよ。このエリア内はSR以下のスキルレベルを半減させるの。なかなかのレアスキルよ。モモを仲間にするの大変だったんだから」
ジェシカはそう言うが、こんなスキルを持っているモモを支配下に置くことが出来るということはSRよりも上位スキル、SSRスキル保持者なのだろう。ジェシカは更にヘルエスと手を繋ぎスキル発動を行った。
「パワーサスペンド!アクティブアタック!トゥワイス!」
いったい何のスキルを発動したのか。ローズに聞くとパワーサスペンドはスキル使用時の体力軽減、アクティブアタックは死角からの攻撃に対する自動反撃、トゥワイスは300秒の間、スキルレベルを2倍にするスキルだという。とんでもないスキルだ。こんなものまであるのか。確かに攻撃力一辺倒では勝つことなんて出来ない。
「ところで、新海くんといったかしら?あなたのスキルはなに?ウォルスからは一つしか持っていないが破壊力はある、と聞いていたけれど」
「殴りのスキルです。スキルレベルは分かりません。今まで出会ったヴェリントンメンバーは全て一撃で気絶させていますが」
「あら。結構じゃない。それじゃ、これはサービス。スコーチングヒート」
ローズは俺の手に両手を添えてそう言った。熱い。拳が異常に熱い。このスキルは打撃系スキルに灼熱効果を付与するものとのことだ。氷結系スキルがないと付与された相手への灼熱効果は解除できないらしい。
セスとボーゲンは手慣れた様子で身構えてヴェリントン本部に近づいてゆく。門の前には誰もいない。ボーゲンが強く地面を踏みつけると同時に雫が扉を蹴り飛ばして悠然と中に入る。なんか分からんが強いんだろうな。
扉の向こうではヴェリントンのメンバーが待ち構えていたようだが、蹴り飛ばした扉で半分以上が地面にのびていた。ヴェリントン、弱いのか?
「そうそう。さっきあなたにあげたスコーチングヒート、言い忘れたけども防御系スキルを持たないプレーヤーを殴り飛ばすと丸焦げになってしまうから殺したくなければ左手を使ってね」
ローズは微笑みながら言うが、なんか物騒なシロモノを貰ってしまったようだ。人殺しにはなりたくないものだな……。しかし、防御系スキルを持っているのかどうかなんて、どうやって見極めるのだろうか。
ヴェリントン本部の屋敷には前衛の3人が既に入っていた。俺たちもそれに従う。モモは最後衛で周囲を警戒している。このグリーンドラゴンはブレス系攻撃スキルでも持っているのだろうか。
「しかし、この世界に来てまさか電脳世界以外に肉体戦があるとは思いもしなかったな。ジェシカさんとヘルエスさんもOPWからの垢オチなんですか?」
「私たち?私たちは違うわよ。こっちの生まれ。姉さんのヘルエスと私はウォルスの娘よ。それにローズはウォルスの奥さん。つまり、私たちの母親ね」
ウッソだろ。似てないにも程があるぞ。まぁ、ローラインの件もあるし、本当の親族ではない可能性もあるか。雑談をしながら歩いているのは前衛の3人が敵を蹴散らしているからだ。一番暴れているのは雫だが、俺にはセスの動きが恐ろしく見えた。容赦なく殺している。殺すなんて生ぬるい感じではなく、惨殺、という言葉が浮かぶほどだ。ボーゲンは落ち着いて向かってきた敵を払いのけるように進んでいる。それより一番恐ろしいのはその屍の上を平然と歩くローズなのだが……。
「おい、クソガキ、後ろから何人か向かってきている。蹴散らせ。お前の役目だ」
モモにそう言われて臨戦態勢を取る。3人来る。いきなり飛びかかってこないところをみると戦い慣れている印象だ。こちらのスキルは殴る押し倒すしかない。向こうから向かってくるのを待つのが得策だろう。その瞬間、大きめの石が飛んでくるのが見えた。
「投擲スキルか!」
俺は咄嗟に右手で石を払いのけた。石は灼熱の炎に焼かれて砕け散っていた。石まで灼き焦がすとかどんなスキルだよこれ……。人間なんてきっと丸焦げどころか消し炭になるぞ。
俺のスキルを見て2人は後ろに下がる。1人は俺に向かってジリジリを距離を縮めて来る。勝算があるのだろうか。ローズの言っていた防御系スキル保有者なのだろうか。それとも氷結系スキル保持者なのだろうか。
「ふう……。参った。俺たちの負けだ。そんなスキルに勝てるわけねぇよ。俺たちはこのまま引っ込むから先に向かいな。他の奴らには手に負えないから引っ込んでる方が身のためだって言っておくぜ」
降参宣言とは拍子抜けだ。このスコーチングヒートというスキルはそんなにハイランクスキルなのだろうか。だが、この言葉を信用して背中を向けたら何かやってくるかもしれない。なにか手はないものか。
「おい、クソガキ、そのスキルは何のためにあるんだ。さっさと地面を殴りやがれ」
モモにそう言われて地面をアッパースタイルで真横に殴りつけてみた。火の壁?が眼前に広がる。めくり上がった床の石が燃えているようだ。
「あっち!」
「なにやってんだ。岩石が燃え上がってるんだぞ。灼け焦げて死にたいのか。早く離れろ」
もうチートだろこのスキル。防御とか関係ないだろ。そんな俺をローズは満足そうに見つめて先を急ぎましょう、とにこやかに語りかけてくる。さすがにこれは向こうからなにも出来ないだろう、と俺たちは前に進む。あれ、帰るまでには消えてるのだろうか。熱すぎて越えられないぞ。
それにしてもこのメンバー、手助けするどころのレベルじゃない気がする。強すぎる。雫はこれ以上の実力者なのか?いったいどこまでのポテンシャルを秘めているのだろうか。さっきから雫は敵を全て蹴り飛ばして倒している。特別なスキルを使っているようには見えない。スキルを発動する程の敵ではないということなのだろうか。
「ローズさん。前衛の3人が戦っている相手は弱いのでしょうか?」
「なにを言ってるかしら。あなたじゃ対処できないような相手だと思うわよ。試しに行ってみるかしら?」
ヘルエスさんにそう言われたが、遠慮させていただいた。この灼熱のパンチで対処できないような相手ってどんなレベルなのか想像がつかない。
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