第11話 レベル98
殺される……。この世界で殺されるとどうなるのか興味はあったが、女の子が惨殺される姿はあまり見たいものではない。モニターから目を逸らしてテーブルの反対側を向いた時、目の前に女の子が突然現れた。
「消えた!?」
「な……」
「ねぇ!新海くん!彼女が消えたの!一瞬で!」
「え?え?」
「って、ええええっ!!」
闘技場中央に落ちたはずの女の子が俺たちのテーブルの横に立っていた。俺は咄嗟に女の子にテーブルに隠れるように指示を出し、店の周りのプレーヤーから彼女を隠した。店の端のテーブルで助かった。
「あの……私……」
「説明は後!しばらくそこで隠れてて!」
雫はテーブルに隠れる彼女にそう言って周囲に注意を向ける。幸いにして店のプレーヤーは皆、モニターに釘付けになっていた。モニターからは解説者だろうか。一瞬で女の子が消えたことについて大声で叫んでいる。
「今の内に店を出るわよ」
店の混乱に乗じて俺たちは店を出て宿へ向かう。宿の中には雫、シュガー、俺、そして例の女の子。まず雫が彼女になにが起きたのか簡単に説明、いくつかの質問をした。
「OPWでのあなたのレベルは?」
「98です」
「きゅっ!?」
「新海くんは黙ってて。どんな攻撃をされたか覚えてる?」
「はい。クラスの同級生複数人、それに担任の先生も攻撃を受けてクラス全員でリカバリを試みたのですが権限を奪われてアカウント落ちしました」
「最後に。あなたが一瞬でこちらに移動してきたのはなんなのか自覚はある?」
「あります。ここから安全なところに”飛びたい”と念じたら雫さんたちのところに居ました」
レベル98なんて、学生で到達する奴がいるなんて。それに一瞬でこの場に移動してきたということは、以前ウィルが言っていた転移のスキルってやつだろう。レアスキルの一つだと言っていた。
「そうだ。君の名前はなんていうんだ?俺は新海。そっちがシュガー」
「私はセルシスといいます。こちらの世界には同級生や先生も居るのでしょうか?」
「分からないわ。少なくともこのブルーエリアに落ちたという情報は聞いてないわ。安全な場所に落ちていれば良いのだけれど。あなたのように転移のスキルなんて持ってるのが奇跡なの。他の生徒さんや先生がなにかしら身を守るスキルを持っていれば良いのだけれど」
転移のスキル。持っているのが奇跡というスキル。一体どの程度レアなスキルなのだろうか。
「雫、転移のスキルってのはどの程度レアなスキルなんだ?」
「スキルにはいくつかの階級があってね。普通の商人や住人が持っているのはノーマル、佐藤くんが持っているのがレア、あなたが持っているのがSレア、そして彼女が持っているスキルはSSレアになるわ。この世界では最上級スキルの一つよ」
最上級……。そして俺のスキルはSレアなのか。さらに上位のスキルがあるのか。その他のスキルも名前を出さずに聞いてみたが例のヴェリントン連中が持っているものはレアクラスとのことだ。
「あの……。私はこれからどうしたら……」
「まずは中央のタワーへ行って貰うわ。SSレアスキル保持者は無条件に攻略プレーヤーになる資格があるの。バディは……そうね、佐藤くんが良いわね」
攻略プレーヤー?攻略?攻撃ではなく攻略と言ったか?攻撃と攻略は全く意味が違う。ID持ちはOPWプレーヤーを攻撃するのではなく、本来は何かを攻略する使命を帯びている?恐らく今の発言は雫の失態なんだろう。SSレアスキル保持者を目の前にして興奮したのだろう。俺は暫く様子を見ることにした。
タワーの前に着いて雫はインターホンになにを話しかけるでもなく、セルシスに直接ドアを開いて中にはいるように案内していた。中に入ったセルシスは1分程度で出て来てIDを貰ったと雫に告げていた。
「さて。これで2組の攻略組が確保出来たわけだけど。サポートメンバーがあと1人は欲しいところね。サポートスキルに特化したような人材が良いわ。レッドエリアの闘技士のところに行くわよ」
レッドエリア?つい先ほどレッドエリアの闘技場には辿り着けるハズもないと言っていたのに。
「雫、どうやってこのメンバーで闘技場に辿り着くんだ?」
「セルシスさん、最初に闘技場に落ちたとき、襲ってきたプレーヤーの後ろに黒いローブにロッドを持った白髪の男が立っていたと思うのだけれど、顔を覚えているかしら?」
「はい」
「十分よ。それじゃ今からそこに飛ぶわよ。みんな手を繋いで。セルシスさん、その黒いローブを着た男の顔を思い浮かべて”飛びたい”と念じてみて」
そう雫がセルシスに言ったが否か、俺たちは豪華な装飾が施された一室に居た。暖炉に向かって一人の白髪の男がロッキングチェアに座ってうたた寝をしている。
「もしもーし。ちょっとよろしいですかぁー」
いきなり雫は男の耳元で口の横に手をやり大きめな声で男を起こした。
「な!なんだね君たちは!どこから入った!」
「い、いやぁ、お騒がせして申し訳ない。ちょっとそこの雫さんがあなたに用事があるとか何とかで」
いきなり他人の家の部屋に入ったんだ。ある程度の礼節はわきまえるべきだろう。そんなことお構いなく雫は続けざまにさも当然、というように男に話を続けた。
「おじさん、闘技士でしょ?育成したプレーヤーの中にサポート特化型スキル保有者いるでしょ?私が買い取るから紹介して頂戴」
「貴様ら!いきなり来て何を言い出すんだ!」
「あら?悪い話じゃないはずよ?サポート特化型スキル保有者なんて屋敷のメイドにしか使えないでしょ?それを私があなたから買い取ってあげるって言ってる。あまり乱暴なことはしたくはないんだけれど……」
そう言って雫は懐に手を入れた。
「!!わかった!わかったからそれを仕舞え。わかったから。ふぅ……。それで?どんなサポートスキルが欲しいんだ?うちには何人かいるが……あんた、攻略組かい?」
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