第10話 闘技場
「簡単よ。あなた、バディなんていたこと無いじゃない。それでこの世界で生きているってことはスキルシーフを使って他人のスキルを奪い取って生計を立ててたってことでしょ。それに。あなたIDを持っていないでしょ。スキルシーフを持ってるID持ちなんて聞いたことないもの」
「くそ!」
シュガーから盗み取ったインビジブルスキルを使って逃げようとするウィル
「新海くん!ウィルを殴り飛ばして!」
雫に言われて俺は咄嗟に逃げようとしたウィルを殴り飛ばした。広場の反対側まで吹っ飛んでウィル失神している。
「はぁ……厄介な事になったわ。スキルシーフにマニピュレータスキル……、盗みに操り、ウィルはヴェリントンのメンバーね」
失神したウィルをしゃがんで眺めた後に立ち上がり、腕を組んでどうしたものか、という顔をして人差し指で腕をトントンしている雫。
「あの……雫さん……。僕はこれからどうしたら……」
「あ、ごめんなさい。マニピュレータ解除するわ。あと、ちゃんとした仕事を紹介するわ。他人を襲ってブラックマネーを得るなんてやめておきなさい。それに、あなたのインビジブルスキルも彼から帰して貰ったから。両手を出して」
シュガーは不思議そうな顔をしながら雫の手を両手で握る。特に変わったことはないが、雫は「これで大丈夫。使ってみて」と言った。
シュガーはその場で姿を消した。インビジブルスキル、姿を隠すスキルなんてものがあるのか。それに……それを取り戻すことが出来たのは雫がスキルシーフ、スキルを盗む事が出来たという事だ。更にはマニピュレータスキル、プレーヤーを操るスキルまで持っている事になる。雫は一体何者なんだ?
「なぁ、雫。そのヴェリントンってのはなんなんだ?」
「簡単に言うと窃盗団ね。他人のスキルを盗んで金に換えるの。入団の必須条件としてマニピュレータスキルとスキルシーフが必要なの。操って盗む。効率がいいでしょ?」
操ってスキルを盗む……。あの晩、襲撃してきたのがヴェリントンのメンバーだとしたらなぜマニピュレータ、操りのスキルで自分を操らなかったのだろうか。操るにはなにか条件が必要だったのだろうか。
「雫、今後のために教えて置いて欲しいのだが、マニピュレータスキルは何らかの条件が揃わないと実行できない制約でもあるのか?」
「あるわよ。その対象のスキルがなんなのか把握して腕を掴まないと操れないの。あなたの殴りのスキルはレアスキルの一つで腕を掴まれた瞬間に殴り飛ばせば操られる事はないわ」
なるほど。だからあの時、俺は操られずに済んだのか。そうだ。封印のスキル。あれも雫の持っているスキルの一つなんだろうか。雫に聞いてみたが「さぁね?」とはぐらかされてしまった。
「あの……僕は……」
忘れていた。シュガーはこの後、雫はどうするつもりなのだろうか。
「あなたは運び屋の仕事を紹介するわ。そのスキルがあれば、比較的危険な場所でも安全に荷物が運べるから。結構いい稼ぎになるわよ」
その晩はシュガーも同じ宿に泊まり、翌朝に雫が運び屋に紹介して無事にシュガーの働き口が決まった。
「新海くん。今日はブラックに行くわよ。今回手に入れたスキルを売りに行くの」
雫はサラッとそんなことを言ったが、ブラックは武器スキルだの危険な奴らの巣窟なんじゃないのか。自分が行ったら瞬殺じゃなかったのか。
「なにをビクついてるの。魔法屋はあのタワーの反対側すぐにあるの。タワー周囲500mは安全地帯だから魔法屋まで十数mしかないわ。で、そんな時のインビジブルスキルよ。早速、佐藤くんに仕事を頼むわよ。私たちを魔法屋まで運んで貰うの」
雫がウィルから手に入れたマニピュレータスキルとスキルシーフは結構な高値で売れた。ついでに自分もなにかスキルが買えないか店の主人に聞いてみたが、顎に蓄えた髭を触りながら品定めをされこう言われた。
「君に売れるものはないな。それより、君のスキルを売ってくれまいか。これだけ出そうぞ?」
提示されたマネーはとんでもない金額だった。この世界で何年過ごせるだろうか。少し揺れたが雫にやめておきなさい、とたしなめられて正気に戻った。
「さて。用事はおしまい。帰るわよ。佐藤くん、帰りもお願い」
ブルーに戻ってきた俺たちは、さっき売ったスキルで獲得したブラックマネーでちょっと豪華な昼食を取っていた。
「ん?あれはなんだ?」
店のモニターには闘技場のようなものが映し出され、オッズが表示されている。
「ん?あれ?レッドエリアで開催されてるスキルデュエルね。闘技士が育てたプレーヤー同士を戦わせるの。トーナメント制になってて優勝者にはレアスキルが与えられるの」
スキルデュエルか。俺の殴りのスキルなら一気に勝ち上がる事が出来るんじゃないか?なにしろ一撃を喰らわせさえすれば勝ちなんだ。
「新海くん?まさか出場しようなんて思ってないでしょうね?万能なスキルなんてないの。この手の勝負は複数のスキルを持ってないと勝ち上がることは出来ないわ。それもかなりの数。初戦で全部見せたら次の一戦で対策を打たれてお終いだわ。それに、あれに出場するとヴェリントンのいい獲物になるわよ。スキルを見せちゃうんだから」
なるほど。そういうことか。しかし、手に入れられるレアスキルってのが気になるな。
「雫、どんなレアスキルを貰えるんだ?」
「非開示よ。開示したら次のデュエルで役に立たなくなるでしょ。それにあれはレッドエリアの開催だから、今のあなたはあの闘技場までたどり着くことも出来ないわよ」
「あの……ウィル……さんはあの後どうなったんでしょうか……」
シュガーがウィルの心配をしている。あんな事があったのに。ウィルは保持スキルが何もなくなって奴隷でもやってるんじゃない?と雫が答えていた。
その時だった。店がざわつき始めた。皆、モニターを指さしてなにか話している。俺もモニターに顔を向けると、デュエルしている闘技場中央に一人の女の子が立っている。銀髪のロングヘアに青い瞳、俺が住んでいた街では見ない白い制服を着ていた。闘技場も予想外の出来事なのか静まりかえっている。瞬間、闘技場は一斉に「殺せ!」の声に染まった。
「不味いわね。あの子、多分OPWからレッド落ちした子よ。よりにもよってあんなところに落ちるなんて。ツイてない子ね。あのデュエルは邪魔者が入ると殺されて虚無行きになるの。ここからじゃどうしようもないし見るのが辛ければモニターから目を逸らしなさい」
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