第3話 不可抗力
また左手を腰に当てて右手の親指を立てて後ろを指さしている。このスタイル、気に入ってるのだろうか。
パブつれてこられて、お酒は飲めるのかを聞かれたが未成年なので飲めないし飲んだことがないと答えると、こっちではそんな法律ないから試してみろと勝手にビールを注文されてしまった。そう言えばこの人は何歳なんだろうか。同じくらいの歳に見えるが……。女性に年齢を聞くのは失礼だし、そのうちに分かるだろう。
パブの店員が2杯のビールジョッキを持ってきた。アンダー思わずボタンのはだけた店員の胸に目線が行ってしまった瞬間に雫に「巨乳がお好み?どうせ私はね!ないわよ!」グチを言われてしまった。これは男の性というもので、なんて言い訳をしても火に油を注ぐようなものと判断して、すまない、と苦笑いでやり過ごした。
「で、早速なんだけど。今夜の宿について。最初に言った通り、同じ宿に泊まって寝食を共にするわよ。この世界のバディってのはそういうものなの。私が男じゃなくて良かったわね。というより、こんな可愛いバディと寝食を共に出来ることを感謝して欲しいわね」
「宿泊費は折半なのか?」
「そこ?素通り?ふぅ……。最初は奢ってあげようと思ったけど、今ので気が変わったわ。あなたも2割出しなさい。それが最大限の譲歩。良いわね」
期限を損ねてしまったようだ。この場合は照れれば良かったのか?女の子の思考はよく分からない。まぁ、宿泊費は聞くところによるとそんなに高くなかったので、2割出しても次の仕事までは問題なく過ごせるだろう。そんなことよりもこっちの世界について山ほど聞きたいことがある。それを知る方が先決だ。
「なぁ、雫。いくつか質問があるんだがいいか?」
「あー。そう言うのは面倒だから、その場面になったら逐一回答するわ。でも気になるだろうから今、一つだけは答えてあげる」
「俺はこの世界にコンソール操作が出来るプレーヤーはどのくらいいるんだ?ウィルは一握りと言っていたが。それにセンタータワーってなんだ?なぜ俺はあのタワーに入れなかった?おかげでテストをなにも受けてない」
「だーかーらー。一つだけって言ったでしょ。その3つの質問のどれを答えて欲しいの?決めて。といってもまた沢山質問をされても面倒だわ。一つだけ答えてあげる。センタータワーってのはゲームマスターのいる場所のことよ。だから私もその一人。私がいいって言ったんだからテストなんてないわよ。あ、2つ答えてしまったわね。良いわ。サービス」
雫は自分をゲームマスターの一人だという。そしてOPWのゲームマスターとこちらの統率管理システムはゲームマスターと同一だという。つまり雫はOPWとUGWの両方の統括管理者であるというのか。それならなぜこんなところで俺と組んでOPWプレーヤーをちまちまと攻撃している?
「あなた、さっきから考え事が多過ぎよ?疲れない?もう何でも良いじゃない。こっちの世界ではOPWプレーヤーを攻撃してブラックマネーを稼いで、おもしろおかしく生活すれば良いだけなのよ。あと、あなたその堅苦しい制服は売り飛ばしてもっと動きやすい格好にした方が良いわよ。あんだすたん?」
雫の機嫌が悪くなってきたので、これ以上の質問はやめておこう。それにこっちの食事はOPWよりも格段に美味しい。OPWのシステムにマネーを投入して手に入れる食事なんか比べものにならない。店員に聞くと人間の手作りだという。そんなものが存在するのか、と驚いてしまった。
「さて。腹ごしらえも済んだし、宿に行くわよ」
雫に連れられて宿に向かう。ここよ、と指さされた宿はロールプレイングゲームの主人公がレベル1の時に宿泊するような安宿だった。まさかベッドが生板に藁だとは思わなかった。俺たちは家畜か。
「この部屋に私としばらく泊まるわけだけど。シャワーも無いから濡れたタオルで身体を拭くだけよ。後で手が届かない場所をお願いするけども、変な気を起こさないでよ」
今度は安っぽいアニメのような展開だ。現実にこんなことが存在するのか。女の子の背中を拭くなんて初めてだし、少々緊張しそうだが。藁のベッドに座って、そう一人で思案していたら雫に呼ばれた
「なにしてるのよ。早くこっちに来て背中を拭いて。汗だくになったし気持ち悪いのよ」
なっ!?今!?今なのか!?心の準備をする暇もなく濡れタオルを手に取り恐る恐る背中に手を伸ばす。
「冷たっ!ちょこちょこやらないで一気にやってよ。まさかあんた童貞?」
図星を突かれて焦ったがなんとか平静を装い、背中を濡れタオルを背中に押し当てた。
「さ、次はあなたの番よ。上着脱ぎなさい」
「い、いや、俺は一人で……」
「なに?私が拭いてあげるのがそんなにイヤなの?それとも……恥ずかしいのかな?」
ニヤニヤしながらタオル片手にこちらを見ている。あのタオルで拭くのか?雫がさっきまで使ってたタオルじゃないか。そこまで節約する意味はあるのか?
「な、なぁ、雫。そのタオルをそのまま使うのか?」
「ん?そうよ?何か問題あるかしら?こっちは水が貴重品でとても高いの。身体を拭くタオル如きを洗い直すとかお金がいくらあっても足りないわよ。さ、そういうわけだから早く上着を脱いで頂戴
ここはなにを言っても仕方がなさそうなので観念して上着を脱ぐ。ゴシゴシやられるのかと思ったら思いの外、優しく丁寧に拭いてくれて虚を突かれてしまった。
「ふぅー……」
「わっ!なにするんだ!」
不意に雫が耳に息を吹きかけてきたので思わず振り向いたら雫の顔が目の前に来てしまって固まってしまった。雫も目を丸くしてこちらを見つめている。直後、口角を徐々に上げながらからかってきた
「なぁにぃ?変な気を起こさないでって言ったのに早速キスのおねだりかなぁ?」
俺はこの挑発に負けたら、これからずっとこの調子でからかわれると判断、雫の頬を両手で押さえて半ば無理矢理にキスをした。
「!!ん~~~~~!ちょっと!なにするの!変な気を起こさないでって……」
「なんだ?雫も処女なのか?まさかキスも初めてだったのか?」
さっきのお返しだ。さすがにキスをするのはやり過ぎかと思ったが、これで一気に形勢逆転だ。
「そうよ!私のファーストキス!どうしてくれるのよ!!」
今度は俺が目を丸くして驚く番になってしまった。
「お、おう。悪かったな。俺もファーストキスだったから等価交換、でどうだ?」
「あんたねぇ。女の子のファーストキスは特別なのよ?男なんかと一緒にしないで欲しいわね。それに……」
雫が泣きそうな顔になってきたので言葉尻に被せて謝罪をする事にした。
「ごめん。すまんって。あまりに俺のことをからかうものだから仕返しにって思ってつい……」
雫は深いため息をついて俺の頬を両手で押さえてきた。
「それに……せっかくのファーストキスなんだもん。もっとしっかり……」
濡れた目の雫はそういってキスをしながら藁の別途に俺を押し倒してきた。
「んぐ…ん……ん……」
最初は驚きが大きすぎて目を見開いてしまったが目を閉じてキスをしてくる雫に悪いと思って、俺も目を閉じて雫の背中に腕を回した。
「はぁはぁ……」
雫は熱い吐息を吐きながら起き上がり、唇を手で押さえながら俺に馬乗りになる格好になった。
「ちょ、ちょっと!これは、これはなんなのよ!私、ここまでするなんて一言も!!」
顔を真っ赤に染めて雫が抗議してくる。
「あ……」
これは不可抗力だ。あんなことをして興奮しない男なんているのだろうか。俺の膨らんだ股間が雫のそれに当たってしまっていた。
「ばかぁぁっ!!」
そう叫ぶと同時に両手で俺の胸を突き飛ばした勢いで床に飛んでいき、片腕で胸を押さえて震えている。
「あの、な?雫。これは男の性というか不可抗力というか……。あと、申し訳ないのだが、短パンを履いてくれないか。目のやり場に困る」
「あ……」
雫は自分がパンツ姿たったのを今、思い出したとばかりにこっちを見ないで!と叫んで自分が後ろを向くよりも早く短パンを履いた。これはなんの試練だったのか。雫がゲームマスターというのなら、これがテストだったのだろうか。それなら俺は不合格になるのか?再び思考の海に沈む。
「ちょっと。新海くん?今日のことは忘れて。お願い」
そう言われて思考の海から浮上し、分かったと返事をしたものの、その日の夜は触れ合った雫の唇と太ももの感触が忘れられずに眠ることが出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます