ひかり
遅延する満員のバスは 浴衣を着た客たちの弾んだ声でさらにギュウギュウになった
いつもなら不快に感じるけど 今日は気にならないや
僕はスマホの時計を頻りに確かめたり
内カメラで髪型を整えたりで忙しい
バスを降りて 待ち合わせ場所まで走る
セットした髪型が崩れるけどしょうがないか
ギリギリ間に合ったけど 人混みで君が見つからなくて不安になる
騙された? なんてまたお得意の卑屈な考えが頭をよぎったけど
君は来てくれた 水色の浴衣で来てくれた
そういえば「似合ってるね」の一言も
言えてなかったよな
代わりに「よろしくお願いします」って
よそよそしいよな
花火がよく見える土手までの道中も
よそよそしい会話で 上手く喋れなかった
可愛い子と話すのは緊張するんだ
それに他人と歩くなんて久しぶりだから
適当な場所にレジャーシート敷いて座った
打ち上げ開始までしばらく時間があったから
君と駄弁っていたけど 話が弾んで楽しかった 過去のことも 将来のことも たくさん語り合った
僕は他人と深い会話をすることがあまりないからさ 単純に嬉しかったんだ
花火が打ち上がったけど 正直どうでもいい
花火は眩しくて 目が痛い
隣で笑ってくれる君の顔をちゃんと見る前に
すっかり暗くなって
そして駅前で手を振って別れた
あの夜が花火が見せた幻だったのならば
この胸のわだかまりもさっさと消えてくれ
君と仲良くなるんだって意気込んで臨んだ花火デート
告白はするべきだったのかな
高三の夏 たった一日だけの君との思い出
儚く消えた花火を 僕は永遠にできなかった
君はどういう気持ちで僕を花火に誘ってくれたのだろうか
結局君とは不穏な関係になってしまったけど
僕はあの頃確かに君が好きだった
今はもうその想いは 花火のように消えたけど
その後僕は少し病んでしまったけど
楽しかった思い出だから
「ありがとう」って想いだけは
せめて消えないで 君に届いてくれ
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