33
「大事な話って、なにを二人で話していたの?」
なぜかにやにやとした(珍しい)いやらしい笑いかたをして、さゆりちゃんが信くんに言った。
「別にたいした話じゃないよ」少し照れながら(なんでだろう?)信くんはいう。
「そうだよ。さゆりちゃん。御影町の話だよ。この町が大好きって話」
久美子は言う。
するとさゆりちゃんは「……ああ。なるほど」と言ってから、にやにやした笑いかたをやめて、信くんを見て、ふふっと笑ってから、「意気地なしだね」と信くんに言った。
「意気地なしって、どうして?」
「なんでもないよ。この話はもう終わりだ。ほら、先に進むぞ」そう言って信くんは一人で歩き出してしまった。
久美子とさゆりちゃんはそんな信くんのあとを追いかけて移動をする。
その移動のときに、「ねえ、さゆりちゃん。さっきの話はどういう意味?」といつものようにわからないことをさゆりちゃんにすぐに聞いてしまう癖のある久美子はそう言った。
さゆりちゃんは「……あとで、こっそりと教えてあげるね」と小声で久美子に言った。
「聞こえてるぞ、関谷」
信くんが後ろを振り返ってそう言った。
「関谷。絶対に三島に言うなよ。言ったらいくら親友のお前でも怒るぞ。いいな。……あとでちゃんと三島には俺からいうからさ」
視線をそらして、鼻の下を指でこすりながら、信くんはいう。
「うん。わかった」
いつものように、優しい顔で、さゆりちゃんが信くんを見て、そう言った。
それでこの話は終わった。
久美子は一人だけ、信くんとさゆりちゃんの二人の話に置いていかれてしまって、一人、首をひねっているだけだった。(それはいつもの三人のよくある風景だった)
三人が御影小学校の正門を出たときに、空から降っていた雨が止んだ。
屋上に出たときに、すでに小降りになっていたので、もしかしたら止むかもしれないと思っていたけれど、雨はそんな久美子の願い通りに(おそらくは一時的にだと思うけど)止んでくれた。
三人は傘を閉じて、それから正門前に立って、これから自分たちが『どこに向かうのか』の相談を始めた。
こういうときは決まって信くんが久美子たち三人の行き先を決めることが多かったのだけど、今日はさゆりちゃんが久美子に向かって、「久美子ちゃんは私たちがこれからどこに向かえばいいと思う?」と聞いてきた。
その答えはもう決まっているようなものだった。
私たちがこれから向かわなければいけない場所。この世界からの(おそらくは)『唯一の逃走経路』。
それは、「あの『長いトンネル』のところだよね」と久美子は信くんとさゆりちゃんの顔を見てそう言った。
信くんとさゆりちゃんも、久美子の意見に同意見のようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます