28 友達
友達
……大好きだよ。あなたのことがずっと大好き。
……保健室の外では、今も冷たい雨が降り続いていた。
ざーという雨の降る音が、久美子の耳に聞こえてくる。久美子は雨が嫌いではなかった。雨の音を聞くと心が落ち着いたし、なんだか本を読んでいるような気分に似ていると思ったりした。(空想するのにも、最適な音楽だった)
「関谷。ここまで言ったんだ。全部話せよ」真剣な顔をして信くんが言った。
「信くん。あのね」
「三島。お前は黙っていろ。俺は今、関谷と話をしているんだよ」珍しく本気で怒っているような声音で、信くんは言った。
「……ごめんなさい」久美子は言った。
「……悪い」
少し間をおいて、信くんが言った。
「……たぶん、関谷さゆりっていう女の子と、如月信くんって言う男の子は、実際の世界でも存在しているのだと思う。……あるいは、その『モデル』になったような、似たような私たちが、現実の久美子ちゃんがいる世界には確かにいるんだと思う。その『私たちに似た誰か』を空想の種として、久美子ちゃんの頭の中で生まれた『架空の人格、あるいは人物』が私と信くん。……なんだと思う」そこまで話したところでさゆりちゃんは久美子を見た。
さゆりちゃんは目に涙をためている。(今にも泣き出しそうな顔をしていた)
「……そんなことないよ。さゆりちゃんも信くんも『現実に存在している人間』だよ」久美子は言う。(久美子も目に涙をためている。久美子もなんだかすごく泣きそうだった。……すごく胸が苦しくて、悲しかった)
「ありがとう。久美子ちゃん」
にっこりと笑ってさゆりちゃんが言う。その瞬間、ずっと我慢していたさゆりちゃんの涙が、その大きな瞳からこぼれ落ちた。
その光景を見て、久美子はこんなに美しい笑顔が偽物なわけない。こんなに綺麗な涙が私が空想で生み出したものなんてありえない、とそう思った。
それは久美子の本音だった。(だって、こんなに美しくて、綺麗なものが、私の内側に存在しているなんて、信じられなかったから……)
さゆりちゃんは涙をハンカチで拭った。
それから、強い顔をして、話を続ける。
「……この世界は久美子ちゃんが空想して作り出した架空の世界。『架空の御影町』の中なんだと思う。でも、ただの空想に、『闇闇』が取り付いた。あるいは久美子ちゃんの夢を見つけて、その『夢の世界』の中に入り込んだ。それで、いろんな不思議なことが起こってしまった。その一番大きな出来事はこの世界の創造主である久美子ちゃん自身が自分の夢の世界の中に囚われてしまったことだと思う。……久美子ちゃんはここが自分の作り出した、あるいは自分の見ている夢の世界の中だと気がつかないままに、その世界に囚われてしまった。……そして、その久美子ちゃんの無防備な夢の世界は、今、闇闇に襲われて、おそらくあと数日後に『世界の終わり』を迎えようとしているのだと思う」
……世界が終わる。
その言葉を聞いて、ぶるっと久美子の体が震えた。
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