20

「その推理は間違っている」

 ずっと固まっていたさゆりちゃんが、ようやくいつもの凛々しいさゆりちゃんに戻って、信くんにそう言った

「へえ、どこが間違っているんだよ。関谷。言ってみな」自信満々で信くんはいう。

「さゆりちゃん。(いつもはともかくとして)今回の信くんの推理は、結構当たっていると思う」久美子は言う。

「……確かにいい線をついている。でも間違っている」さゆりちゃんはいう。


「まず……」さゆりちゃんは長いトンネルの前をいったいきたりしながら話を進める。

 そんなさゆりちゃんのことを信くんは腕組みをして自信満々で見ている。久美子はそんな二人の少し離れた場所に立って、そんな二人のことをじっと見守っていた。(そんな三角形のような関係が、いつもの三人の立ち位置と関係だった)


「仮に如月くんの言う通りだとすると、この場所にはこのトンネルを隠していた壁の残骸が残っていないといけない。でもそれはどこにもない。雨や風で流されたのかもしれないけれど、少しも、つまり痕跡もないというはちょっとおかしい」

 さゆりちゃんは言葉を続ける。

「……それに、壁も綺麗すぎるし、トンネルも古いものだけどきちんと形が残っている。土砂崩れのような現象が起こったのから、もっと形が崩れていてい筈だと思う」

「なるほど」信くんはいう。

 なるほど、と久美子は思う。

「だからこの長いトンエンルは隠されていたわけじゃないと思う。たぶんだけど、『この長いトンネルは、或る日突然、この場所にあらわれたんだと思う。……まるで幽霊のように』」さゆりちゃんはトンネルの中を闇を見ながらそう言った。(そのさゆりちゃんの意見は私(久美子)が考えていた意見とほとんど同じだった。


「驚いたな」信くんが本当に驚いたような顔をしてそう言った。

「確かに俺も最初はそう思ったんだけど、そなんことは『ありえないだろ。オカルトじゃあるまいし』。このトンネルは『幽霊トンネル』ってことだろ? そんなことはありえない。俺たちの中で一番、そういうことに否定的なのが関谷だろ。俺は関谷に否定されないために今の推理を頑張って考えたんだぜ? なのに当の本人がこのトンネルは幽霊トンネルだという。そんなことを俺の知っている関谷さゆりが言う筈がない。……関谷。お前本当にそう思っているのか? それとも俺のことをなにか試していたりするのかよ」

「なにも試していない。本当にそう思っている」さゆりちゃんは強い目をして信くんを見てそう言った。(冗談を言っている風にはこれっぽっちも見えなかった)


「……なるほどな」少し間をおいてから信くんがいう。

「まあ、いいよ。どっちにしろ、その答えはすぐにわかるからな」

「え?」信くんの言葉に久美子が言う。

「いいか、三島。『これから俺は一人でこの長いトンネルのなかに入る。そしてこのトンネルがどこに続いているのか、なんのための施設なのか、それをきちんと自分の目で確かめようと思うんだよ」と信くんはにっこりと笑って久美子に言った。

 久美子はだめ。危ないよ。と信くんを止めようとした。

 でも、その久美子の言葉よりも先に「だめ。危険すぎる」とさゆりちゃんが言ってそんな信くんの行動を止めようとした。

(そのさゆりちゃんの目は、表情は、珍しいことに、すごく動揺していた)

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