童話部屋

まよりば

第1話 メロンやさんのほそながメロン

むかしむかし、あるところにとてもおいしいメロンを作るメロンやさんがいました。

メロンやさんのメロンは、かおりもあじも良いとひょうばんで、お店のまえにはいつもお客さんがぎょうれつになっていました。

メロンやさんは、そんなお客さんたちをよろこばせようと、来る日も来る日もおいしいメロンを作って売りました。


そんなある日、まちに大雨がふりました。

大雨はなんにちもなんにちもつづき、しまいには川まであふれてしまいました。

それから10日ご、やっと雨がやんだので、メロンやさんはいえのそとへ出ておどろきました。

町はみずびたしのどろだらけ。

めろんやさんは、わるいよかんがしてメロンのはたけへむかいました。

けれど、むかった先にはたけはありませんでした。

大雨がつづいて川があふれたせいで、そだっていたメロンも、畑の土もなにもかもながされてしまったのでした。

メロンやさんはかなしみました。

しばらく泣きに泣いたあと、こうしていてもはたけは戻ってこない、と、メロンやさんはおもいたちました。

ながされたメロンのことはあきらめ、はたけをたがやすと、いえにのこっていたメロンのたねを植え直しました。


うえなおしたメロンは、すくすくそだちました。

ただ、メロンをうえたきせつがいつもとちがうせいか、はたけの土がちがうせいか、まえほどかたちも味もよくありませんでした。

メロンやさんは、みょうにひょろながく、水っぽい味になってしまったメロンをお店にならべてみましたが、形がちがうせいか、味がちがうせいか、メロンはとんと売れなくなってしまいました。

困ったメロンやさんは、のこったメロンを少しとおい町に売りに行くことにしました。

「メロンはいりませんか?」

 メロンやさんは町の広場で声を上げました。

「あら、おいしいのかしら」

 お客さんが、ものめずらしそうによってきます。ですが、ほそながいへんな形のメロンを見ると、みんなざんねんそうに目をそらし、買ってくれるお客さんはほとんどいませんでした。

 メロンやさんはしばらく広場でお店をひらいていましたが、お店ははんじょうすることなく日がくれてしまったので、あきらめて帰ることにしました。

 夕方、日もしずみ暗くなった道をメロンやさんはひとりしょんぼりと歩きました。売れのこったメロンは、すこし歩くとポロポロと荷台からおちてしまい、拾うたびになんだかため息がこぼれてしまいます。

 ごと、とおちたメロンを拾おうとしたとき、メロンやさんはだれかが道ばたでたおれているのに気づきました。


「どうしました?大丈夫ですか?」

 メロンやさんが声をかけると、たおれていた人は少しあたまをあげ、うめくような小さな声でぼそぼそとへんじをしてくれました。

「大丈夫じゃないです……。おなかが空いていて……」

 メロンやさんは荷台のメロンをとって、たおれていた人にわたしました。たおれていた人は、頭の上だけ毛のない、カッパのような変わった髪型の人でした。

「うちでとれたメロンなんですけど、食べますか?」

「メロン?こんなにほそながいのに?」

「メロンなんです。こんなにほそながいけど」

 カッパ頭さんは、わたされたメロンをしばらく見つめ、がぶりとかみつきました。

「やさいのような味のするメロンですね」

 かっぱ頭さんは、じゃくじゃくと音を立てながら食べ、あっという間にメロンまるごと食べてしまいました。

「すごくおいしいですよ!こんなメロンははじめてだ!」

 そう言うと、カッパ頭さんは、メロンを次から次へと食べていきます。

 メロンやさんは、持ち帰るよりもおいしいと言ってくれる人に食べてもらったほうがいいだろうと、カッパ頭さんがお腹いっぱいになるまでメロンをあげました。

「ふう、お腹いっぱいだ」

 カッパ頭さんは、大きなゲップを出しました。

「こんなに美味しいものをこんなにいっぱい食べさせてもらえるなんて。助かりました」

 メロンやさんは、カッパ頭さんが満腹でニコニコしているのを見て、さっきまでかなしくなっていたのがうそのように良い気もちになっていました。

「いやいや、このメロンは売れのこりで持ち帰らないといけないものだったから、いっぱい食べてもらったほうが良かったんです。こちらこそ助かりました」

「なんと、こんなおいしいメロンが売れのこりとは!お客さんは見る目がないなあ」

 カッパ頭さんは、とてもおどろいたようでした。

「このメロンは、まだお店にのこっているのですか?」

「ええ、まだいっぱいありますよ」

 メロンやさんは答えました。すると、カッパ頭さんはにっこり笑って言いました。

「明日の朝、この場所にメロンを全部持ってきてください。ぼくと村のなかまでぜんぶ買いますよ」

 カッパ頭さんは、約束ですよ、とメロンやさんに地図をわたすと、すっかり暗くなった道を歩いていってしまいました。


 次の日、メロンやさんは教えられた場所へ向かいました。でも、その場所は川のほとり。

(こんなところに村なんてあったかなあ?)

 メロンやさんが首を傾げていると、おーい、と川の中から声がします。メロンやさんがとまどっていると、カッパ頭さんが川からあがってきました。

 どうもどうも、とカッパ頭さんとメロンやさんはぺこぺこおじぎをしあいました。カッパ頭の人の頭のてっぺんは、とてもきれいにはげています。

「昨日はごちそうさまでした」

 カッパ頭さんは言いました。

「昨日のメロン、持ってきてくれましたか?」

 メロンやさんは、もちろん、と荷車いっぱいのメロンをかっぱ頭さんに見せました。

 かっぱ頭さんは、「おーい、メロンきたぞー」と川に向かって叫びました。すると、川の中からぞろぞろと同じような頭の人が出てきました。そして、次から次にメロンを買っていってくれるのです。

 かっぱ頭の人たちのおかげで、メロンはあっという間に売り切れてしまいました。

「いやあ、この前の大雨のせいで村の畑で作っていたきゅうりが全部ダメになってしまって困ってたんですよ。村全体で食べ物が足りなくなってたので、本当に助かりました」

 かっぱ頭さんは、メロンを両手いっぱいに持ってとても嬉しそうです。メロンやさんも売れ残って困っていたメロンが全部売れて、びっくりするやら嬉しいやら。

 メロンやさんは、かっぱ頭さんに収穫していない分のメロンも全部この村で売ることを約束し、約束通り、その年のメロンはすべてかっぱ頭さんの村で売りました。

 メロンが売れたお金で、メロンやさんは山の上に新しいメロンの畑を作りました。

その畑では、今まで作っていたような丸くて美味しいメロンがなりました。

 次の年から、細長いメロンはかっぱ頭さんの村で、新しい畑で取れたメロンは近くの街で売りました。

 どちらのメロンもとても評判で、街の人も、かっぱ頭の村の人もそれはそれは喜んだということです。

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