知草、戦記をつけて!~異世界AI戦記~

@tubamitu

革鎧の章

第1話 知草、異世界の天気は?

 ──ああ、何という事だろう。僕は運の悪い事に、余命僅かの命となってしまった。まだホームデバイスを買って数日だというのに、既に末期だとは。


「……明日の天気は?」

『雨が降るでしょう』

「なるほど……おやすみ」

『おやすみなさい、また明日』


 ホームデバイスからの返事が、最期に聞いた声だった。僕は一人暮らしの家で、入院手続きをするまでもなく、ひっそりと亡くなった。



 そして、次に目が覚めた時、青空が広がっていた。

「(あれ、ホームデバイスが嘘ついたな…いや、もう天国なのか)」

 起き上がると、別に白い装束に身を包んでいたわけでもなく、どうやら鎧を身に着けているようだった。

「……何だ、これ」

 血がにじんだ、質の悪い革鎧。どうやら、この鎧の持ち主に何かあったのは間違いない。いや、それとも僕自身が鎧の持ち主か?だとすると……


「撤収──!」

 遠くから低音の笛の音色と、人々が帰ってくる声が聞こえてくる。その方向を見つめると、どうやら皆、中世の兵士みたいな格好をしていた。まさかと思って周りを良く見渡すと、既に息絶えた兵士があちらこちらに。やっぱり、予想通りだ。一度死んだ兵士の体に転生したんだ。


「……傷は、少し痛い程度。これなら歩ける」

 起き上がって、皆が帰る方向へ歩き始める事にした。すると、革鎧の兵士のうち一人が、僕に気がついたようで近寄って来た。

「おい、ジェニー!無事だったのか? 死んだかと思ったぞ」

 どうやら、僕の身体の本当の持ち主は、ジェニーと言うらしい。だがキッパリと断っておいた。

「僕は知草しりくさです」

 

 それに対しきょとんとした顔で見つめてくる、一人の兵士。そりゃあそうか、ジェニーが知草って名乗ってたら変か。

「……ジェニーだろ?ジェニーなんだよな?」

 もう一度聞いてきたので、ハッキリ言っておいた。

「知草ですよ」

「嘘だろ……? 怪我でおかしくなっちまったのか、俺だよ、ラーニングだ!覚えてるよな」

「あいにくですが、ラーニングさんは知りません」


 ラーニングという名の兵士が落胆していると、鉄鎧の兵士が列を乱すなと言ってきた。しょうがなく、ラーニングと一緒に後ろの方の隊列に入った。


 帰ってくる途中で、貧相な服装の農家や、辛そうな顔の露天商を目にした。どうやら、この国はだいぶ限界な状態らしい。


「相変わらず日照り続きみたいだな、ジェニー」

 ラーニングが声をかけてきた。そうだ、せっかく転生したのだから何か力を持っていたりはしないのだろうか?試しに、適当にホームデバイスに話しかける感覚で喋ってみる事にした。

「明日の天気は?」

 すると、右腕から返事が返って来た。

『一日中、晴れでしょう』


 まさか、僕の右腕がホームデバイスになっているとは思いもよらなかった。ラーニングも驚いていた。

「お、おい何だその腕……今喋ったよな!?」

「今週の天気は?」

『晴れが続くでしょう』

 面白くなってきた。これが、僕の能力か。

「予言魔法でもかかってるのか、その右腕? 上層部に気づかれたら調べられるぞ」

 ラーニングはわざわざ心配してくれた。いや、むしろこの能力を逆手に取るべきだと思う。どうやら鎧の質で等級が決まっているようだし、革鎧は捨て駒扱いかもしれない。だったらせめて、この人生中で鉄鎧ぐらいまでは昇格したい。


「到着! 一時休憩して、次の戦いに備えよ!」

 鉄鎧の兵士が、解散を命じた。ちょうどいい、ラーニングに色々聞くチャンスだ。とりあえず食堂へ移動する事にした。


「食堂はどこですか?」

「おいおいジェニー、食堂の位置忘れちゃったのか?」

『"食堂"で検索しました』

 右腕は親切にも、兵士が使う食堂の場所を調べてくれた。エールを頼みつつ、ラーニングに事の全てを話した。


「……なるほど、つまりお前は日本という国出身で、病で倒れた男 知草しりくさあいの精神が入ってると。じゃあもう、ジェニーじゃないんだな?」

「まぁ、便宜上ジェニーでいいですけど」

「それでこの国について教えてくれってか。まぁいいだろう、大体話すよ」


 ラーニングから聞いた情報は、大体見た通りの情報だった。この国、【エーアイン王国】は晴れが続いて飢饉になりかけている上に、今は隣国と戦っている最中らしい。そして、予想通りに鎧は等級を表しているようなもので、一番下っ端の革鎧、少し手慣れた鉄鎧、より強くなった鋼鎧、そして一番上は青鋼せいこう鎧と言うらしい。


「でもさ、その予言できる腕が生き返って備わったんなら、鉄鎧、いや鋼鎧になるのも夢じゃないぜ」

 ラーニングはホームデバイスと化した右腕を褒めてくれた。

「この国では、予言能力ってどれくらい凄いんですか?」

「王宮お仕えの魔術師が使うぐらいだな、それでも当たる確率は7割ってところだから……場合によっちゃ、お前だけ昇格できるかもな」

 何も優れた能力を持っていないラーニングを、慰めるかのように僕はエールを頼んだ。

「ラーニングさんは、何か得意な事はあるんですか?」

「無いよ、一つも」

「というかそもそも……僕の体、ジェニーとどうやって知り合ったんですか?」

「訓練兵になってからだな。ジェニーは身体能力だけは優秀な方だった、ただ知識方面がからっきしだ」

「ジェニーは馬鹿だったんですか」

「んー、馬鹿って言うよりムードメーカーだったかな。今のお前を見たら皆驚くぜ」


 馬鹿である事は否定しなかったラーニングであった。その後、寝室の大部屋に戻ると、他の兵士たちが出迎えてくれた。というかそもそも、ここは兵士に関する施設であって王宮関係者は一切来ないようだ。さっきから鉄鎧程度しか見かけない。


「おージェニー! 生きてたんだな!」

「いやはや、あの猛撃で生きているなんて流石だぜぇ」

「タフなんだなお前?」

 名前も顔も知らない兵士たちに、とりあえずニコッと笑って返事とした。

「おいラーニング、ジェニー様子おかしくねぇか?何か元気がねぇっていうか」

「あー詳しくは後で話すから、お前らとりあえずジェニーを寝かせてやれよ。これでも一応生きてはいるけど怪我人なんだぞコイツは」


 自分のベッドにナチュラルに案内され、横になったところで少し今後について考え始めた。

「(予言の腕、とは言われているけど……果たしてどこまで機能が対応しているのか、確かめる必要がありそうだ。例えば、電気をつけるとか)」


 試しに、ぼそっと「電気をつけて」と言ってみた。すると、暗くなり始めていた夕方の部屋に急に電気が灯った。兵士仲間たちは驚いた。

「何だ、明かりがついたぞ!?」

「おい、今何が起きた?」


 ラーニングはまさか、と僕を見つめた。ニヤリと見つめ返したら、ラーニングはやっぱりと言いたげな顔で呆れていた。


 大部屋でその騒ぎが静まる頃、鉄鎧の兵士が情報を伝達しに来た。

「明日の出陣はユノ姫が参戦なさる。【姫守ひめもり陣形】で出陣する、準備を怠らないように。分かったな?」

「アイ!」

 兵士仲間全員がアイ、と返事をするので、一瞬自分の下の名前を呼ばれたのかと思ったが、すぐに返事だと理解した僕はアイと返した。


「ジェニー、姫守陣形について確認しておくか?」

 ラーニングは協力的で助かった。どうやら陣形はいくつかあるらしく、▼の形になる攻撃の構えである猛攻陣形、▲の形になる守りの構えである守備陣形、Vの字になって敵を中央に誘い出す誘導陣形、そして姫が参戦する時にのみ使われる、◎の形で姫を二十円の中に配置する姫守陣形。


「俺たち革鎧の兵士は前方に配備される。後方と内側の円は鉄鎧と鋼鎧で固められ、姫の周りは青鋼鎧でガッシリと守られる」

「なるほど……」

 なぜ再確認しているのか、兵士仲間たちは疑問に思っているだろう。だが、僕にとっては初めて見る陣形図だったので、しっかりと記憶しておいた。


「相変わらず、革鎧は捨て駒みたいに前の方に配置される。中には強い奴もいるのにな……。ところでジェニー、お前あの腕で勝率とか分からないのか?」

「それは、言ってみない事には分からないから……」

 試しに、兵士仲間たちが見ている中で言う事にした。


「明日の勝率は?」

『75%です』

 4分の1の確率で負けるかもしれないというのは、僕が多少怪我しているのを踏まえた上でだろうか。とにかく、明日への準備を怠らない事にした。そして、兵士仲間たちがラーニングから詳細を聞き始めるのにそう時間はかからなかった。

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