弁天島カイレル良子の未来予知
鍋島小骨
(一) 二〇二二年 七月十八日 月曜日
「ミコ、世界は終わるんだよ」
明るいピンク色の
予言通り『
花屋の花というものは
彩度の高い世界。
そんな中、私の友人である弁天島カイレル良子――本名である。べんてんじまカイレルながこ、と読む――は一生懸命に言うのだ。
「だから私、
いやそれは知っているのだけれども。うちでも去年、行方をくらましていた大叔父が死んで見つかったものだから。
立派に葬式を出してやりたい見栄っ張りの祖父と、長年出奔したままだった一族の鼻つまみ者になんか一円も余計に使いたくない大伯母との間に様々の小競り合いがあり、その中で私は斎場用意の棺やらスタンド生花、盛り籠、死装束などの価格表を目にし、葬儀の場であってもあらゆる装いはピンキリであり金次第だということを学習した。
確かに段ボール製の軽い棺は見た。今時の少人数の葬儀だと持ち運びも大変だし段ボールなら軽い上に気持ちよく燃えて無くなるだろうからなるほどこれはアリよりのアリだな、と思った記憶がある。
「裁きの日が始まるのは七月二十一日の朝なの。だから私たち、少なくとも二十日の晩は棺で眠るようにしないといけない。てことは、注文するなら急がないとだめなの、もう十八日だから。それも在庫があればの話になっちゃう」
いつの間にか薄っぺらいカタログを取り出して開いた
「私、この一番お手頃な布張り棺のピンクにするけど、ミコはどうする? なんか、側面とかに取っ手がつくと同じやつでもすごい高くなるみたい」
「あ、そういう和風なやつでいいわけ」
我ながら気乗りしない声で私は言った。
「キリスト教向けっぽいデザインもあるんだけどなんか高いんだよねえ」
カイレルは唇を
とにかくカイレルにはもうこちらから連絡しないようにしよう。SNSにメッセージが来ても時差でスタンプだけレスとか既読無視とかにして、付き合えませんよ、よそを当たってちょうだい、というスメルをお出ししていこう、と思っていた。だって、世界滅びます系の宗教はやばい。そんなことは私たち、前世紀の末によくよく思い知らされたのではなかったのか? まだ生まれてもいないけど。
大丈夫、カイレルを切っても私は孤立しない。はずだ。多分、大丈夫。
ところが翌日の正午きっかりに私が目を覚ますと、世間は大騒ぎになっていたのである。
七月二十一日木曜日に世界は滅び、棺に隠れた女だけが生き延びる、と。
いや、でも待ってほしい。それは都合が悪い。何で今週だよ。何で二十一日なんだ。私は認めないぞ。やるならせめて来月にしてほしい。だって観たかった映画が二十二日の金曜に封切りになる。『シルバー・ブラッド・ストライプス2:アラーテッド』。私の神ツムシュテーク監督の三年振りの新作。あのアラステア・ケラハー主演作。金曜日にやっとその上映が始まるのに。
大体カイレル、別にSNSでもアルファとかじゃないのにこんな大騒ぎになってるの、絶対おかしいだろ。何だこの爆速の
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