第31話クルエラ視点
※時系列は、ホースとマーニーが生徒会室に入ってきた日と同じ日。
学園長先生にあれから度々、報告とかこつけては学園長室へと訪れた。
まず初回は、実行委員会の発足の許可や報告を兼ねてお会いした時は本当に優しくてふらついてしまった私を、優しく抱きとめてくれるなんて紳士だからこそ出来るその所作に胸の鼓動が早くなって大変だった。
二度目に学園長室へ行った時は、発足後の大まかに決まった事を報告し、私なりにまとめた予算表を見てもらい、色々指摘を貰いながらもっといい手立てがあるからと沢山教えてもらった。
数回通い、進展があるのかいまいち分からないと考えていたある日、その日は私が学園祭のお客様を歓迎するのにクッキーを配るのはどうだろうという話が通ったため、女子寮で沢山作ったクッキーの試食をしてもらうべく学園長室へ来ていた。
いつも通り、すっかり座り慣れた応接用のソファへ腰を下ろして、テーブルにクッキーが入っている円形包みにラッピングされた包みを取り出して広げた。
「今日は先日言っていたクッキーを焼いてみたので、学園長先生も是非食べてみてください」
「君が焼いたのかい? 市販で売られている物みたいな出来だね」
クッキーの出来を率直に褒められて頬が熱くなる。
しかし、照れている場合ではないから頬を両手で添えながら「ありがとうございます」と声を絞り出してお礼を言うと、早速食べてくれるのかと思ったら私の座るソファの方に腰を下ろして並ぶよう座った。
いきなり詰められた距離に、驚きのあまりに後ずさってしまった。
「えっ、え……?」
「テーブルが広いからね、近いほうが一緒に食べられる」
「そ……う、ですね」
ふわりと香る香水で相手に聞こえてしまいそうな程鼓動が早くなり、胸に手を当てながら落ち着けと言い聞かせる。
思った以上に彼にときめきを抱いしている事を自覚して、また顔が熱くなった。
きっとシャルが、クリストファー様にくっつかれたりしている時もこんな感じだったのかなとふと思い出した。
すると、ぼんやりとしていた私が気になったのか、突然学園長先生の綺麗な顔に覗きこまれて「ひゃっ!」と変な声を出してしまった。
「ははは! そんなに驚かなくてもいいじゃないか」
「もー! 学園長先生はお顔が綺麗なので、あまり近くに来られると恥ずかしいんですよ!」
からかわれて悔しくて、両手を拳にして自分の膝をぽかぽかと叩いて抗議をすると、またそれが面白いのかお腹を抱えて笑われてしまった。
あんなに紳士で、大人っぽい落ち着いた学園長先生がこんなにあどけない顔をして笑う姿を見れたのが嬉しくて、つられて笑ってしまった。
すると、その顔を見られてしまい、先に落ち着いた学園長先生は一度腰を上げて改めて座り直すとさっきより私の方に近づいた。
肩が触れそうで触れない距離に少しやきもきしつつ、笑ってしまった事を怒られてしまうのではないかと慌てて両手で口を隠す。
「ご、ごめんなさい……。あまりに無邪気にお笑いになるので、少し可愛いなと思ってしまったんです。お、大人の殿方に……ましてや先生にこんな事失礼ですよね」
「いや、こちらこそ笑い過ぎて怒らせてしまったからね――すまなかった」
そう言って優しく私の横髪を撫でてそれを耳にかけられる。
その仕草がとても官能的で、今まで経験した事のない大人の甘さを感じてまだ落ち着かない高鳴りが悪化してしまう。
学園長先生の滑らかな指が私の耳にかすかに触れて、もっと触れて欲しいと思ってしまう。
でも生徒の立場で、まだ何も進展していないのにこんな事言ってはいけないと俯いてしまう。
すると、頭に手を回されてそのまま引き寄せられて頭上に何かが触れる。
――……うそっ。
さっきより接近してふわりと香水の香りが強まり、肩に力が入ってしまい、ぎゅっと目を閉じてしまった。
これではまるで怯えているみたいじゃないかと慌てて顔を上げると、妖艶に目を細めて微笑む大人の男性の顔をした学園長先生から今度は目が離せなくなった。
「いつも頑張っているご褒美だよ」
頭にキスをされたのだと後で分かった。
柔らかく微笑む目の前の男性は、本当に先生なのだろうか。
気になっているだけだった私の感情は、すっかり本気の恋に変わってしまっていた。
「クルエラ君、私はどうやらいけない恋をしてしまったようだよ」
「……へ?」
「ははっ、面白い顔になっているよ」
大きな手でぽんぽんと頭を撫でられ、混乱して思考が定まらない私の肩に手を置くと突然軽く頭突きをされてしまった。
「った……」
「今の話、君が好意的に受け止めてくれるなら、今後も君が〝報告〟にここまでおいで」
その言葉ではっきりした。
私と学園長先生の禁断の恋愛は、確実に始まっていた。
2019/08/16 校正+加筆
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