第24話 逃走経路に開ける穴
正面玄関を出た俺たちを出迎えたのはお馴染みのリムジンではなく、布地の幌を張ったトラックだった。
気の毒なボディガードたちのためにリムジンは遠隔操作で一足先に荒野のゲストハウスに向かわせたのだ。これほど気配りの行き届いた盗賊がいるだろうか?
荷台にお宝を積み終えると頭取はジムとジニィに任せ、俺とクレアは前部席に収まった。
「なんだかうまく行き過ぎね、ゴルディ」
「なに、本番はここからだ。キャラバンは襲撃されるものと相場が決まってる。ただし、襲ってくるのはインディアンじゃなく騎兵隊の方だがな」
俺はエンジンを回すと、人質たちに投げキッスをして銀行の前を離れた。
旧国道に入ってしばらくすると周囲の風景が一変し、だだっ広い平野になった。
俺は運転をオートに切り替えるとシート後方の隠し扉を解放し、クレアと荷台の方に移動した。
「やあ、窮屈な場所ですまないね。もう少しの辛抱ですよ、お客さん」
俺は虚ろな表情で荷台の隅に蹲っている頭取に声をかけた。
「ああ……わかっている。大丈夫だ」
暗示が薄れかけているのか、頭取は焦点の定まらない目で俺を見た。俺は端末を取り出すと、最初の合流地点で待機しているはずの別動隊を呼びだした。
「こちらゴルディ。そっちに向かってる。マンホールの裏にマーカーはついてるだろうな」
「へへっ、こちとら抜かりはないぜ、ボス。安心して帰って来なって」
ノランの呑気な口調に俺はかえって不安を掻き立てられた。端末の画面上を進んでいる青い点と道路の先に瞬いている赤い輝点との距離を確かめつつ、俺は運転席を振り返った。
――たのむぜ、行き過ぎるなよ。
俺は運転席の方を振り変えると、勝手に動いているハンドルに向かって呟いた。
第一の合流地点が近づいていることを告げる音が鳴ったのは、銀行を離れて四十分ほど経過した頃だった。俺は画面上を動く二つの点が重なる位置でトラックを停めると、荷台の床に屈みこみ、大きく取られた四角いハッチを開けた。
「よし。ドンピシャだ」
俺は床下から現れた道路とチョークで描かれた×印を見て思わず快哉を叫んだ。
俺は床下に降りると、アスファルトの一点を踵で軽く蹴った。するとアスファルトの一部がくるりと裏返り、取っ手の形の金具が出現した。
「持ち上げるぞ。……ブル、荷台の奥にあるウインチを金具の上に移動させてくれ」
「わかってるって。……よし、ここだな。固定するぞ」
俺はアスファルトの上に飛びだしている取っ手にウィンチのフックを引っかけると、荷台にいるブルに合図を送った。数秒後、モーターの作動音と共にウィンチが巻きあげられ、アスファルトの一部が丸い蓋となって浮きあがった。
「もっとだ。一メートルは上げてくれ。……よし、OKだ」
俺はウィンチのモーター音が止まったことを確かめると、道路の真ん中にぽっかりと開いた穴を上から覗きこんだ。穴の内側には鉄梯子が設置され、遥か下の暗がりにノランの姿が覗いていた。
「やったあ、ドンピシャだぜ兄ぃ。……さあ、早く『お宝』を落としな」
俺は荷台に戻り、ウィンチを脇にどかすと台車の上の袋を片っ端から穴に放りこんでいった。時折ノランの「ぎゃっ」という短い叫びが漏れたが、俺は気にせず作業を続けた。
「そんなに立て続けに落としたら危ないだろ、良く見ろこの唐変木」
「我慢しろ。ゆっくりやって追っ手にとっ捕まるよりましだ」
袋をあらかた穴に投じ終えると、俺はブルとジニィに「よし、予定通りお前たちは下に降りてノランたちと合流しろ」と言った。
「急かすなよ。俺は梯子を下りるのが大の苦手なんだ」
俺は「実地訓練で慣れろ」と言い放つと、不平を漏らすブルの身体を穴に押しこんだ。
二人の姿が穴の下に消えると俺は再びウインチを使って穴を塞ぎ、床を元の状態に戻した。さて、引き上げるとするか。そう言おうとしてクレアの方を向いた、その時だった。
「……ゴルディ、見て。何か来るわ」
「何だって?」
クレアが示した端末の画面では、無数の光る点が動いていた、それは俺たちのトラックに向かって、何かが確実に近づきつつあることを意味していた。
〈第二十五回に続く〉
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