第11話 うつくしき留守番女
「うわ、すげえ。秘密基地みたいだ。……ゴルディこんな大きな穴、あんた一人で掘ったのかい?」
地下の
「馬鹿、一人で掘るわけないだろう。ここはかつて『ティアドライブ』で使用される石の採掘坑だったんだ。鉱夫たちの反乱の後、封鎖されていたんだが、今はこの通り盗賊のアジトとして有効活用されてるってわけだ」
「なるほど、それでこんなにでかい穴が開いてるのか」
昇降機が穴の底に到着し、動きを止めると俺は目の前の『関係者以外立ち入り禁止』という札と共に施錠されている鉄柵の前に立った。
「この向こうが俺の塒だ、びっくりするなよ」
俺は鉄柵の鍵を外すと、その向こうにあるシャッターの前で屈みこんだ。シャッターの縁に指をかけ、力任せに持ち上げると錆ついた金属が悲鳴のような音を立てた。
「ゴルディ……あの向こうに見える建物があんたの『アジト』なのか?」
ブルのまさかと言わんばかりの問いかけに頷くと、俺はシャッターの向こう側に足を踏みいれた。大量の石を削り出して大伽藍のようになった地下の空間に、アーリーアメリカンスタイルの木造家屋が映画のセットのようにぽつんと建っていた。
「来なよ、案内するぜ。クラシックな掘立小屋だが、キャンピングカーよりは広いはずだ」
俺は背後を振り返って三人に目配せすると、懐かしい『我が家』に向かって歩き始めた。
西部劇に登場するようなスイングドアを押し開けて中に入ると、バーカウンターのある広いフロアが目の前に現れた。
「主のお帰りだぜ、クレア」
俺はカウンターの前に荷物を下ろすと、奥の冷蔵庫からビールの瓶を取り出した。十九世紀と二十世紀がごちゃませのレイアウトだが、なに、そんな事を気にする奴はいない。
「地下にこんな古めかしいアジトをこさえるとは、旦那も物好きなこった」
「このあたりにあった村の建物は、大体こんな感じさ。家と仕事を奪われた村人たちをしのんで、彼らの住居に似た設えにしたってわけさ。死者の無念を悼む意味も兼ねてね」
「死者だと?どういうこった、ゴルディ」
「今から十年ほど前、鉱夫たちが劣悪な労働環境を改善させるべく、炭鉱を仕切っている会社に対して立てこもりのストライキを行ったんだ。ところが会社側は坑道に炭酸ガスを発生させるロケット弾を撃ちこみ、出てきた鉱夫たちを見せしめのために銃殺したんだ」
「ひどい話だな」
「ひどい話はまだある。石の採掘量が減り始めた山に見切りをつけた会社は、不満分子を一掃しようと彼らの家族を皆殺しにし、村ごと焼き払った。いわばここは未来を奪われた村人たちの巨大な地下墓所、そして俺はその墓守ってわけだ」
「なぜお前さんがそんな役割を?」
「村人たちが権利に目覚めて動いたのは、俺が連中に掘ってる石の価値を説明したからだ」
「なぜそんなことを?かくまってもらった礼代わりか?」
「いや、違う。その頃の俺はただの流れ者で、まだ『盗賊ゴルディ』になっていなかった」
「ふうん、それでお前さんは、村が無くなった後、ここに一人で暮らしてるってわけか」
「一人じゃないさ。心強い相棒も一緒だ」
「相棒だって?」
ブルが訝し気にあたりを見回し始めた、その時だった。
「ゴルディ、何でこんなところに女性のマネキンなんか置いてあるんだい」
奥の部屋を覗きこんでいたノランが、戻ってくるなり俺に向かって問いを投げかけた。
「おかしなことを言うなよ、ノラン。このアジトにマネキンなんかあるわけないだろう」
俺が即座に切り捨てるとノランは口を尖らせ、不服そうに抗議を始めた。
「じゃあ、自分の目で確かめ……う、うわあっ」
奥の扉に目を向けたノランはひと声叫ぶなり、その場に固まった。
「な、なんだあ、ありゃあ……」
ブルとジムもノラン同様、凍り付いたようになったのを見て、俺は忍び笑いを漏らした。
「紹介しよう。俺がこの世で最も信頼している相棒、そして世界一美しい女、クレアだ」
俺が目で示した先に立っていたのは、マネキン人形のように首から上がない女だった。
〈第十二回に続く〉
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