第7話 凄まじき飛行機野郎
ヴァルチャーの機体は操縦席が鳥の頭部のように突き出しているのが特徴で、隊長機だけが他の機体と微妙に異なり、キャノピーの後方に赤いトサカ風の突起が付いていた。
俺は急上昇と旋回を繰り返しながら、隊長機の背後を取るチャンスをうかがった。背後で二人がごろごろとカップの中のダイスみたいに攪拌されている気配があったが、俺は内心で詫びつつひたすら目標の影を追った。
奴らの航跡は不規則で、視野に飛び込んできた次の瞬間にはもう消えている。俺は多少の被弾は覚悟した上で、隊長機の動きを予測した。あいにくとこの『空とぶ箱』には追尾ミサイルなどという気の利いたものは装備されていない。チャンスは一度きりだった。
立て続けの旋回にさすがの俺も参りかけた時、ついにボスの背後を取るチャンスが訪れた。赤い点のような『トサカ』が目に入り、俺はトリガーを引いた。隊長機が火を噴くのを見た直後、俺たちの『空とぶ箱』も被弾し、きりもみしながら落下を始めた。
「……くそっ、ユニットをやられたな」
俺は必死で車体を建て直すと、非常用の車輪を出すレバーを引いた。どうやら飾りだと思っていた翼は飛ぶためのものではなく、重力制御ユニットが故障した際に滑空するためのものだったらしい。
俺はなんとか無事着陸できますようにと祈りながら、目の前に迫ってくる陸地に向かって車体を降下させていった。やがてどん、という衝撃を尻に感じたかと思うと、車体が滑走を始めた。
――やった、やっぱり列車は地上を走るのが一番、似合ってるな。
俺がほっと安堵の息をつき、そう独りごちた直後だった。
「ゴルディ、前を見てよ!このままじゃ森に突っ込んじまう」
はっとして遠くに目を向けるとノランの言葉通り、数百メートル先に黒々とした森林地帯が待ち構えているのが見えた。
「こんちくしょおーっ」
必死で制動をかけているにもかかわらず、車体は百キロを軽く超えると思われる速度で突進を続けた。密生する木々のシルエットがみるみる目の前に迫り、あっと思った次の瞬間、車体は音を立てて前方の低木を薙ぎ倒しながら暗い森の奥へと突っ込んでいった。
激しい衝撃を何度か感じた後、車体はようやく動きを止めた。車外に飛びだすのではないかと思うほど窓に頭をぶつけた俺は、ふらつきながらやっとのことで立ちあがった。
「おい、大丈夫か。……どうにか敵の襲撃から逃れたぜ」
俺は腰や背中をさすっている二人に声をかけた。相当ダメージは被ったようだが、どうやら命に別状はないらしい。
「襲撃なんてそんな昔のことは忘れちまったぜ……いたた、まったくひでえ航空会社だ」
ブルが顔をしかめながら悪態をついた、その時だった。
「……音が聞こえる」
突然、ノランがそう呟いた。
「音だって?」
「ああ、何かがこっちに来る。……ちょっと外に出て見る。ドアを開けてよ、ゴルディ」
ノランに請われ、俺はドアを開けた。ダメージから回復したのか、ノランは間髪を入れず外に飛び出した。俺とブルがおそるおそる後に続くと、めちゃめちゃに薙ぎ倒された倒木の上で遠くの一点を見つめているノランの背中が見えた。
「……やっぱり来たよ、こんなところまで」
「来たって、誰が」
「ジムさ。自慢の動くアジト『レインドロップス号』に乗ってね」
ノランに促され俺とブルが森の奥に目を向けると、やがて木立の間から見たこともない巨大で奇妙な乗り物が、幽霊船のように靄を切り裂いて俺たちの前に姿を現した。
〈第八回に続く〉
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