第11話 薬草摘み
只今、迷っていることも忘れて薬草摘みをしています。
薬草? ええ、薬用植物です。
素人でも見分けやすい、ヨモギやドクダミ、に似た植物を見つけたのだ。椿の知っているものと同じ保証はないが、なんせ香りも似ている。もう間違っててもいいや、と籠(兜)一杯に摘んでみた。兜のゴブ臭も浄化されることだろう。
散々摘んでから思い出す。
これが薬草だったとして、納品先がないではないか。
冒険者ギルド(?)は、今やもう入りにくい。食べるにしても、草だけ
ヨモギは根こそぎにして、土を軽く落とし束ねておく。3束ほど集まったところで日が傾いてきた。
お腹も空きっぱなしだし、せめて水なりを確保したいと思う。
門の向こう側から日が昇ってきたのを思い出す。仮にあちらが東だとすると、林に踏み入ったのは南と言うことになる。太陽を左手に歩き、なんとか城門に向かう。
途中、遠くに大きなイノシシのような獣を見た。
もう、即逃げである。
自分が学んだ武術なんて、人間が相手であることが前提なのだ。言わば競技だ、スポーツだ。野生の獣、ましてや異世界のモンスターかもしれない相手に敵うはずがない。鉄砲でもあれば違うのかもしれないが、でも当たる気がしない。弓? 論外だろう。当たっても勝てる気がしない。乙事主様級だったらどうする。
せめて長物があれば逃げるにしても安心感があるんだけど。槍とか欲しい。薙刀があれば言う事ないんだけど。祖父なら竹刀でもゴブリンくらい平気で倒せるだろうな、むしろ気合だけでゴブさんは昇天するかもしれない。
あぁ、こうなる前に、爺さんに会っておきたかった。
婆ちゃんの3段デコパンケーキ食べたかった。
薙刀の形のおさらいをしたかった。
はぁ~……
城壁が見えたときに湧いた安心感のなんて大きなこと。
思わず駆け出すほどだ。
なんとか街に戻ってきた。
顔を洗いたい、むしろ服を洗う方法も確立したい。そして風呂に入りたい。
広場の噴水で顔を洗ったら変人確定だろうな。循環している水なら汚いだろうし。生活用水はどうしているんだろうか。共同井戸とかありそうなものだが。もしかして水道が通っているとか。
しまったな、魔法とかで、すべて家庭内で済まされていたらどうしよう。家なしはまったく生活できないぞ。ぐるぐると考えが巡る。
城門の通りを外れ、人通りの多い道を選んで歩く。治安が良いのは人が多いとこだけだろう。用心に越したことはない。
手桶を持った女性が建物から出てくるのを見かける。すぐさま追跡を開始した。ほどなく用水路に辿り着いた。水路は建物から出てきている。井戸が掘られているか、湧き水なのだろう。城壁の反対側を確認していないが、あれほど広い林があるのだ、地下水が豊富なはずだ。
奥様軍団が野菜を洗ったり、服を洗ったりしている。手桶に水を汲んで帰る人も見かける。飲水にもしているのかな? 先程の建物が個人の家の標準的な規模だろうか。家に井戸はないのかな。
なるべく下流に陣取り、ばっしゃばっしゃと顔を洗う。奥様方の視線が痛い。タオルがないので袖で拭う。奥様方の視線が痛い。身体を拭きたいな、それこそタオルが欲しいな。顔を濡らしたままボーッとする椿に、手ぬぐいが差し出された。年配の女性が、見かねて貸してくれたらしい。ありがたく受け取り会釈する。顔と手を拭いた手ぬぐいを返そうとしたが、受け取りを拒否された。真面目な顔で何か言われたが、持っていきなと言うことかな。汚いから受け取りたくないのかもしれない。
それとも、ハンカチもないのかよと言うことだろうか。すみません、なんせ裸でこの国に放り込まれたもので。
もう一度お礼代わりの会釈をすると、女性は満足そうに頷いて去っていった。あら、思っていたのと違うかもしれない、純粋な親切心が見てとれた。
それにしても、ありがたい…… タオルを得た! 身体を拭こう!
外套を外し上着を脱ぐ、シャツを脱ごうとしたところで奥様方が殺到してきた。口々に『はしたない』と言葉を頂く。いや、きっと「はしたない」で合ってるはず。変な女の認定間違いなし。仕方がないので、濡らして絞った手ぬぐいを、裾から入れてお腹や背中を拭く。腕も、襟元を拡げて首の後ろから胸元まで吹く。はしたない、を表明するような、ジトーっとした目で見られているが、気にしない。
なんとか満足するスッキリ感を得た。
ついでに、ヨモギの根の土を洗ったり、ドクダミを水に晒しておく。
ちなみに、更に下流には公衆トイレがあった。
水路の上だ、どういう仕組みかは言うまい。
水路を使う場合は位置に気をつけよう。
昨日はどうしていたかって? そりゃ外ですよ、人の目がないんですもの……
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