第5話 糞王国
ざばーっ! と、湯船のお湯ごと硬い床に投げ出された。同じ轍は踏まないとばかりに身構えるが、やはり裸だ。もろだしだ。心を折られそうになったが、また斬り殺されては堪らない。すぐに周りを警戒して立ち上がった。
周囲にはやはり、教会のような荘厳な衣装のおっさん達が居る。壁が漆喰で白く塗られているのも手伝って、前よりは明るい部屋だ。そう、明るいのだ、つまりは丸見えのはずだ……
ザ・メイドと言って良い、髪を引っ詰めたお揃いの衣装の女性たちが慌てて大きな布を持ってこようとするのが見える。そしてまた居た、金髪が居た、新しい金髪だ。明らかに動揺した表情だが、王子様然とした男前だ。
今度の王子様は取り巻きの騎士風な男前と、眼鏡の男前を伴ったまま近づいてきた。一応は慎重なあたりが、前の糞王子よりご自身のご身分が分かっていらっしゃる様子を伺える。なんせ椿は異世界から無理やり引っ張ってきた存在だ、安全とは限らない。しかし、皆の目線は胸に向かっている。下半身も丸出しなのだが、やはり男はおっぱいに目がないのだろうか。
一度も椿の顔を見る様子のない王子様は愚かにも、あっさりと手の届くところまでやってくる。そして、簡単に腰の剣を奪えた。過飾気味な剣をしっかり握り、護拳部分をメリケンサックのように使って王子様の顔面を殴りつける。胸ばかり見ていた王子様は簡単に殴り倒せた。裸の女がいきなり襲いかかるなど思わなかったのだろう、驚く騎士様のむき出しの太ももに、ついでとばかりに剣を突き刺し走り出す。ここからが大事だ、逃げ出せたとしても再び召喚される可能性があるのだ。この場に居ることがその証拠だ。
「私を辱めたな!」
一応それらしい台詞を叫んでから走り出す。一直線に魔法使いのような出で立ちの初老の男まで迫り、その胸に剣を突き立てる。うむ、丸出しの胸を凝視していたからか、まったく抵抗がなかった。まあ、走ったら揺れるからな!
泣きそうになりながら、メイドの持つ真っ白い布を奪って部屋を出た。布、思ったより小さいな…… バスタオルのように胸と下半身を隠せるかと思ったが。泣く泣く腰にだけ巻き、急いで建物の外に向かう。上半身はまだ丸出しだ。
幸いなことに、見張りと思われる男たちも呆然と胸を見たまま、椿が外に出るのを見送った。仕事をしろよ、糞しかいないのか……
問題はまだ続く、そう、外に出てしまったのだ。椿はまだ裸だ。
建物の外は噴水を中央に備える、広い公園のような場所だった。じんわりと涙が溢れるのが判る。なんせ結構な人がいるのだ。せめてもと髪を肩から前に垂らし、少年誌の漫画のお色気シーンのように胸を隠す。当然ながら片乳しか隠れない。髪の毛なんて漫画ほどボリュームはないのだ。あんなに都合よく隠れない。
ええい、女は度胸だ、この世界ではトップレスくらいで恥じらいを覚えない文化かもしれない!
広場を横切る、なんて度胸はなかったので周回して一番近い通りに飛び込んだ。ずっと視線が付いてきたあたり、トップレスになる人は居ないのだろう、残念だ。通路の人たちから注目を浴びる中、服飾を扱っているだろうお店が見える。なんたる僥倖! 椿は迷わず店に飛び込んだ。
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