チートを貰えなかった召喚聖女は帰りたい
積網彦
プロローグ
12月25日の夜、ケーキをホールごと買って
3年にも渡る大規模システムに検収が上がり、社員一同が熱狂と共に今年最後になる社長の訓示を受けたのはつい先程だ。今回の収益は、なんせ1年は仕事がなくても従業員に給料を払い続ける事ができるほどらしい。つまり、来年の稼ぎはそのまま給与の底上げに繋がる。喜ばない社員はいないだろう。
世間が言う、ブラックだのデスマーチだの、この社長の元なら我慢ができた。なんせ、明日から1週間の冬期休暇に1ヶ月の一斉休暇、しかも給与が出る! を言い渡されたのだ。「では2月1日に会おう!」そう言った足で、社長は空港に向かった。カナダでスキー三昧だそうな。しっかり働き、しっかり休み、しっかり遊ぶ。切り替えが大事だと語る、剛毅な社長だった。
パスポートすらない椿は、特に出かける先も思い浮かばず、ケーキに酒、肴を抱えて帰宅したわけだ。休暇は丸々実家で過ごすのもいいなと考えている。祖父になまった体をみっちりと絞って貰おうか。爺さんの剣道道場は正月も休まずやっている。やってくる物好きも少なからず居る。祖母譲りの薙刀の技で挑んでも、未だにあの元気爺には勝てないのだ。あの細い体から発せられる気合の声は凄まじい。あの声だけで死んでしまう動物だって居ることだろう。そして、あと30年は死なないだろう。
スマホで早々に新幹線の指定席を確保した。休みになると間違いなくダレるから、明日にでも動いてしまおう。
玄関に買い物袋を置き、靴を脱ごうと身をかがめた時だった。突然、強烈な白い光が巻き起こり、立ちくらみに似た感覚に襲われる。気付くと石畳の部屋に居た。教会だろうか? なんせ周りには荘厳な雰囲気の衣装をまとった男たちが居るのだ。いやいや、おかしい、ありえない!
椿の姿を確認した男達から、おおーっと歓声が上がった。
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