第4話・魔王の悩み

 ルシアノの肯定を目にしたラビタルは、緑色の目をキラキラと輝かせながらリリオネルへ視線を移して感極まったように涙を流し始めた。普段の彼を知る者なら、生まれてこのかた見たことが無いと言う者ばかりだろう。当然の如く、ハヴァルの顔色やルシアノの表情までも変わってしまった。その事に気づいたリリオネルは、御目付け役ハヴァルの感激の思いを一身に受けた後のこの状態で、一所懸命にラビタルの方へ小さな指で“彼処あそこへ行きたい”と伝える。


「うー、あうぁ」

(言葉は分かるんだけどなぁ…“うー”とか“あー”しか言えないの不便だわ)


 生まれ変わったばかりだと言うのに、思考が落ち着いているのは、本当に前世に対しての執着が一つもなかったという事なのかも知れない。ゆえに、非常に前向きなのだった。魔王陛下の行動を見たハヴァルは、ラビタルに再びリリオネルの身体をソッと抱かせてやった。すると、嬉しいという感情が爆発したのか、ラビタルの腕に思いっきり力が入ってしまった。普通ならどんな魔物も潰れる程の力なのだが、リリオネルの場合は違った。6対もの翼の強度が異常に高かったため、全くダメージを受けずに済んだ。感動が止まらない魔王城の重鎮3人、イマイチ状況が掴めない魔王リリオネル、若干シュールな場になっている。


(誰か気づいてくれ、この状態、そろそろ限界だぞ…)

「ぁーぅー」


「あれ?ラビタル様、ハヴァル様、陛下が何か仰ってますよ」


「ん?」


「え?」


 抗議の声を上げては見たものの言葉を喋ることが出来ないので、どうやってこの4人だけの空間から抜け出そうかとリリオネルは精一杯の知恵を巡らせた。不意に騒がしい廊下のほうにチラッと目をやると、そこにはデカい入り口いっぱいに城内の上位魔物達がギッチギチに顔を詰め込んで4人のことを見つめていた。玉座の間の近くには、ほかに王の居室や寝室、執務室等、王に関係がある部屋の数々とラビタルやハヴァル、ルシアノのような最上位魔物の部屋があり、1階下には上位魔物達の居室がズラリと用意されている。そこに住んでいる者達がいち早く駆け付けてきていた、その光景にビックリしたリリオネルが入り口を指さして騒ぎ始める、これには流石に恐怖を覚えたようだ。


「あー!あー!う!」

(怖い!怖いよ!凶暴な顔!?顔っぽいヤツがいっぱいなんですけどっ!!?)


「あぁ、なるほど!申し訳ございません陛下、“永久の王”としてのお披露目をしなければなりませんね!」


「おい!お前達も着替えてからエントランスで待っていろ!」


「となると…陛下のお召し物も替えねば!ほらラビタルッ、陛下のことは一旦ルシアノに任せて我等も着替えるぞ急げ!」


「よし!頼んだぞっ、ルシアノ!」


「はい、お任せ下さい」


「ぅー」

(違うぅっ!そこじゃねえよぉ!)


 リリオネルが伝えたかったことは何一つ通じなかったが、とりあえず少しの間はルシアノと2人きりで静かな空間になると安心したのもつかの間、玉座に据えられ数分後にはルシアノが、より煌びやかな服と髪飾りを付けた姿で両手いっぱいに豪華なベビー服らしき物を持って現れた。赤ちゃん魔王として生まれ変わったかと思いきや、いきなり崇められて何となく立場を理解しかけた所で、今は次々に服をあてがわれ流石に意味が分からなくなっている。


「うー?」

(なんなんだー)


「ん?このお召し物が宜しいですか?んー、深紅かー。お!なんと素晴らしいっ!!お似合いです陛下!!こちらに致しましょう!」


 声を上げると、また受け取り方を間違えられる。もうリリオネルは伝えることを暫く諦めようという姿勢で、されるがままになっていた。大人しくなったリリオネルの着替えを進めるルシアノが、赤ちゃん魔王の長い長い白髪はくはつを真紅の宝石が散りばめられた髪飾りでまとめ、白銀に輝く小さな王冠を小さな頭に乗せて仕上げる。

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