Game Start

龍ケ崎(りゅうがざき)はテレビ画面の前に座り両手に握ったゲームコントローラーを慣れた手つきで動かすことに飽き飽きとし始めた時、イヤホンマイクから龍ケ崎の耳元に言葉が流れ込んできた。


「龍ケ崎、お前やる気ないだろ」


眠気まなこの頭を使って機械的に操作していることがバレたのだろうか…


いや、プレイを見て判断したのだろう。


その言葉に龍ケ崎は手に握ったコントローラーをさっきよりも少し強く握った。


「やる気も何も、お前が無理やらせてるだけだろ」


手元はコントローラーを動かしゲーム中の画面を見ながら龍ケ崎は通話相手に怒鳴るように反論する


しかし、言われた通話相手は怒られたことを反省する気は毛頭なく、おちゃらけた口調で返事をした。


「いやいや龍ケ崎、俺はお前の手伝いをしてるだけだ」


その言葉に反論しようと口を動かしたところで画面の中では自身の動かしているキャラクターが倒され画面が切り替わった。


それを見て龍ケ崎はため息をつき反論することが生産性をないことに気付く。


「それにしても、今の時代に2D画面のFPSゲームをやってるなんてな」


だからなのか相手のNPCの動きが少しおかしいところがある。壁に向かって走り出したかと思えば構わず敵の陣地へと突っ込みこちらのチケットを減らしてくれるのだ。


「いやいや、これが意外と面白いんだ。それにお前にしてみれば、ゲームなんてどれも楽勝だろ?」


その言葉に龍ケ崎の眉間に皺ができた。




龍ケ崎は5年前MMOゲームの大会で優勝したのである。


しかし、優勝してみてどうだろうか、龍ケ崎の名前は確かに世の中に知れることになったが結果として龍ケ崎のゲームへ対する気持ちは遠ざかっていったのが事実


あの大会から5年、龍ケ崎は年の割に猫背気味の背中を座椅子に沈めて勝利と真ん中に書かれたテレビ画面をどこか遠くを見るように眺めていた。


そんな思いを感じているのか通話の相手は揚々と口を開いた


「さすが、初めてやったゲームなのにキルデス比が2,5いくとはな」


そう言われ龍ケ崎は初めて自身の成績の横を眺めた。


「別にそんなので上手い下手を比べるのもどうかと思うけどな」


その次に目にやったのは自分より上位にいた通話相手でもあり仲間でも有る、名前は『Karasuno』いつもはローマ字そのまま「鴉野(からすの)」と読んでいた。


「それじゃあ、もう俺は良いだろ」


龍ケ崎は通話画面をみつめる。その言葉は通話を切ってもいいかという無言の合図だった。


「ああ、おかげで階級上げることができた」


その言葉に腹立ちながらも鴉野はそれじゃあまた、と一方的に言い放ち通話は終了された。




鴉野の行動に苛立ちを抑えながら、壁にかかっている時計を見ると現在の時刻は午後12時半。カーテンの隙間を抜けるようにして外からは真夏の陽が差し込むのを見ながら立ち上がり部屋のそこら辺においてあった服に着替えるとひとり暮らしのアパートのドアをあけて出ると鍵をかけた。

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