第463話 いや、それは仕掛けとは違うから

「ま、私に関して言うと、元々そういう用途に使うつもりは一毫もなかったけれどね」

 自分のプライドのために一言付け足しておく神内。すると何故か、天瀬は考え込む仕種を覗かせた。

「変なこと言ったかしら?」

「いえ。神内さんは、やっぱり日本の神様なんだろうなあと思っただけです。勝負にカルタを持ち出してくるだけでなく、卓袱台返しとか一毫なんて、よその神様だったらまず使わない」

 おかしな所に気付くものねえと感じつつ、神内は頷いた。

「確かに日本担当よ。ハイネは違うけれども、彼だって日本のことを知らないわけではないから、話し言葉に日本ならではの言い回しが含まれることはいくらでもある」

「それでも、あの死神サンは外見からしてもう日本のものではないです」

 決め付けると、天瀬はすっきりした様子になり、サングラスを掛けた。

「お待たせしました。決着を付けるときです」


             *           *


 ギャンブル勝負第八戦をどうにか勝利し、私は小さくガッツポーズをした。

 折り返しの第七戦を終えた時点では後塵を拝していたが、今ので取り返し、四勝四敗の五分に戻せた。ワンペア同士の、言ってみればしょぼい役だったが、勝ちは勝ちだ。

 予想通りというべきか、った勝負になっている。終盤までもつれ込むのは間違いない情勢になった。

 予想と違うのは、意外とさくさく進んできたなってこと。体感時間で三十分と経っていないと思う。初戦で私があれこれ“飛び道具”で仕掛けたことにより、次戦以降は死神の方もやり返してくるに違いないと身構えていたんだが、これと言って特別なことは起きていないのも、進行が早い要因の一つだろう。

 特別なこととして強いて言うとしたら、私の方はこれまでの勝負の最中に合計三度、カードを取り落としている。どうも指先に痛みが走るんだよな。恐らくだけれども、四番勝負の第二戦で神内との体力勝負に臨んだが、あのときに傷めた気がする。落水しそうになった瞬間、ところかまわず掴もうとしたもんな。指先や爪に強い力が掛かり、怪我をしていてもおかしくはない。もっと早く気が付いていれば、体力勝負の直後に治療できるよう申し入れたろうし、今やっているギャンブル勝負だって、カードを落とさないように最初からより一層注意をしていたのに。元の木阿弥ってやつだ。

 もう一方で、特別によいことと言えば、やはりラッキーナンバーの件がある。死神から脅かされたものの、私の手札に6が入っていることや交換した札が6であることは明らかに多い気がする。この傾向を元に、重要な局面で判断を下していった。そのおかげで大勝ちとは言えないまでも、勝ち星を拾うことはあった。

 気になるのは、次の第九戦辺りから終盤戦に入ること。ハイネの言う通りになるとしたら、そろそろラッキーナンバーに裏切られる頃合いか? 敵の言葉をどこまで信用していいのか分からないけどな。

 そういや今の状況って、あれにちょっとだけ似ているかもしれない。前にも思い出したことだが、“期限付き抜き打ちテストの予告についての矛盾”だ。現状のギャンブル勝負に無理矢理当てはめると、ラッキーナンバーの効力が第十三戦までに消えると予告されているが、真実か否かは不明。でも真偽に関わらず、プレイヤーである私は影響を受けて戦い方を変えようか迷っている、といったところだろうか。

 さて、戦法を改めるタイミングをいつにするか、最後の検討と行こう。ここまでリードを保てていたなら、ラッキーナンバーの効力がなくなることによる一敗を喫するまで、愚直に6頼みの戦略で突き進んでもよかったのだが、実際はやっと五分の星に戻せたていたらくだからなぁ。カードを取り落とす不運が重なったとは言え、結果は結果だ。

 見方を変えれば、まともに闘えば&カードを落とさずにいたら、私はハイネに対して互角以上の戦いができていたと思っていい。ただし、相手は特殊能力とやらをまだ行使していない。その上、私の方はラッキーナンバーのよりどころがなくなるかもしれないとあっては、光明が見出せないわけだが。

「どうかしたのかね?」

 ハイネの声に目を起こすと、カードが配られていた。いや、無意識の内に相手の動きや配られるカードは目で追っていたとは思うんだが、考えに没頭しすぎていたようだ。

「いや、いつまで経っても仕掛けて来ないなあ、なんて柄にもなく心配になってきたものでね」

 正直な心持ちを口に出してみた。一応、ハイネの反応を見るためという目的はあるが、だからといってそこから今後の作戦につながる見通しは立っていない。

「仕掛けて来ていない? そうかね、そう感じているのかえ」

 ふふふと含み笑いめいた息を漏らすハイネ。まさか、こいつ、もうすでに――? 思わず、椅子をガタッとさせてしまった。私の動揺を見て取った死神は、重ねて笑う。

「愉快愉快。急に冷静でなくなったねぇ。――とうに仕掛けておるよ。おまえにとって6がラッキーな数だってのは、いつまでも続かないと言っただろ。あれは不確かな推測でしかない。なのに、おまえはだいぶ踊らされているようじゃないか」

「……」


 つづく

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