第446話 普通とはそこそこ違うポーカー

 ファイブドローポーカーというのは、日本で最も馴染みのある形式のポーカーだ。五枚ずつ配って、手札を相手にはまったく見せないまま、カード交換やチップによる駆け引きを経て、最後に役の強さで競う。

 それをベースにすると言いながらも、何だかんだとオリジナルの味付けをしてきている。ドローポーカーと銘打っているのに、早々に手札三枚を開かねばならない辺りは異例だろう。要はドローポーカーとスタッドポーカー(一部の札をオープンにして闘う)の融合を狙ったゲームなのかな。

 チップ・コインなどを賭けることで生じる駆け引きの妙味がない分、相手の交換できる枚数をこちらである程度コントロール可能なのは面白い。サイコロの出目を完璧に思い通りにするのはまず無理だろうから、タイミングを見て己の札五枚を晒すのも戦略的にありと言える。

 と興味をひかれると同時に戦略に思いを馳せるが、説明文だけではまだ分からない点がいくつかある。私は時間制限されていることを念頭に、前置きなしに尋ねた。

「どちらが先に札を開くのかは、どうやって決める?」

「最初にサイコロを振るかジャンケンでもして、勝った方が先というのでよかろ。以降は直前のポーカー勝負に勝った方が先とするのが、なるべく公平なルールと言えるんじゃないかえ? ついでに、カードを配るのは直近の勝負で負けた者としておくか」

 確かに。特例があるから、オープンするのは相手の出方を見られる後番の方が有利であると言えよう。一勝上げた方が次の先番をやるというのは、理にかなっている。

「最後の項目はガン付けを封じるためだろうけど、他にどんな行為がイカサマになる?」

「イカサマを指南することにつながるんで、具体的に言及するのはよしとくよ。ま、ばれなければイカサマも正式な勝利と見なそうじゃないか。その方が面白い」

「しょうがない。分かった。ではばれた場合は? 罰則を設けておくかい?」

「厳しくしすぎてもつまらぬ。イカサマがばれた側をその回の敗者、つまり反則負けとすることで事足りるんじゃないかねえ」

「十三戦して勝ち星の多い方が最終的な勝者となるのはいいが、引き分けがあるかもしれない」

「引き分けとして思い描いておるのは、たとえばノーペア同士で、カード一枚ずつの強さもまったく同じというようなケースだな? 引き分けにならないよう、マークにも強さの順位を付けておくとしよう。強い方からスペード、ハート、ダイヤ、クラブの順でかまわんね?」

「かまわない。ただもっと細かな点を詰めておく必要がある。一例だが、同じ2のワンペア同士なら、スペードの2を含んでいる方の勝ちという理解でいいのかな? それともワンペア以外の三枚を比べて、それらの数の大小もまったく同じだった場合に初めてワンペアのマークを比べるのだろうか?」

「後者だね。マーク比べは最終段階だ」

「念のための確認になるが、ジョーカーを含んだ役は、同じ役でも最弱の扱い?」

「無論」

「ストレートで、エースとキングのつながりはどこまで認める?」

「ごく一般的な……と言うだけでは曖昧か。10、ジャック、クイーン、キング、エースの並びのみを認め、他の形、たとえばキング、エース、2、3、4は不可だ。もうぼちぼち七分が過ぎるぞえ。次の質問で最後としてよかろうな?」

「ああ。最後になってしまったが、最も重要な確認だ。ハイネさん、あんたが一回だけ使える特殊能力がどんなものか知らないが、このギャンブル対決を通じてずっと使い続けても、それで一回とカウントするのかい?」

「――ふふん」

 ハイネが愉快そうな反応を見せた。肝となる問い掛けだったか?

「その方が私も気楽に使えるが、だめだというのなら、それなりに対処のしようもある。好きな方を選べ」

 ここに来て、考えさせられるとは。

「考える時間を三十秒くれ」

「よかろ。ぎりぎり七分台前半に収まる。四捨五入すれば七分だ」

 助かる。即決するには重要過ぎる。

 で、だ。相手の言葉を信じるなら、ハイネの使う特殊能力は本来、一回使ったという区切りがはっきりしてるタイプなんだろう。しかし対処のしようがあるとも言った。想像を逞しくしてこの台詞を解釈すると、特殊能力を一度行使すれば、そのまま使いっぱなしにすることができるし、そういう使い方でも充分に威力を発揮できるんじゃないか?

 このとき、神様の特殊能力として私が頭にぱっと浮かべたのは、神内と以前一戦交えたときに彼女が使ったタイマーだった。あれは攻撃ではなく、時間経過を知らせるためのものだったが、結構うるさい。仮に音で相手の邪魔をする能力だとした場合、一回ごとに短く集中力を乱されるのと、連続使用されてずっとうるさい目に遭うのとを比べるなら、前者の方がましなのは論を待つまい。時間がないこともあり、私は直感に従った。

「決めた。このギャンブル勝負の間なら、何度使ってもかまわない。ただし、途切れることのない連続使用は不可とさせてもらう」


 つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る