第349話 オカルト好きとは違うのに

 うらやましがるのはここいらで棚上げとし、気持ちを本筋に引き戻す。

「うーん、ちょっと気になるな」

「えっ、僕の対応が悪かったって言うんですか」

「いや、気になるというのはそこじゃなくて。天瀬さんはそういう怪現象、オカルトなことを信じるタイプだったっけ? 違ったような気がするんだ。女子は男子よりはオカルト好きな面が強めかもしれないが」

「僕も天瀬さんはそういうタイプではないと思ってました。だから、そのギャップもあって、自然と対応がいい加減になってしまったのかな……」

 気に病んでいるのが伝わってきた。

「九文寺さんの影響を受けたわけではないと思うけど」

 うん? どうしてここで九文寺薫子の名前が挙がるんだろう?

「九文寺って富谷第一の女子児童だよな。どうしてそう考えたんだ?」

「たいしたことじゃないんです。科学館で知り合ったあと、天瀬さんと彼女が一度か二度、電話で話をしたみたいです。そのとき話題になったことの一つ、星占いだったって前に聞いていたものだから」

 なんだ、その程度のことか。さすがに長谷井の考えすぎだろう。

 プラネタリウムの観覧に来るくらいだから、九文寺薫子もそれなりに天文に関心があるに違いない。その延長線上で、星占いに興味を持ってもさほどおかしくはない。占いはオカルトのエッセンスを含んでいるかもしれないが、星占いは当初は大真面目な科学だったんだし、非科学的だからと言って警戒したり排除したりするほどのものではあるまい。

「電話での会話に死神という単語が出て来たとでも言うのならともかく、星占いなら関係ないだろ。ここはやはり、天瀬さんの夢に現れた死神がよっぽどリアルだったんだと考えるべきじゃないか」

「ですかね……」

「夢の中で死神がどんなことをしてきたのか、具体的に副委員長は言ってたかい?」

「えっと、全部は覚えてませんが……死神が大きな鎌を構えていたことと、『おまえの両肩に他人の命が懸かっている』とか何とか脅かされたって言ってましたね」

「なるほど」

 言葉による説明のみではさほど恐怖は感じないけれども、リアルな姿を伴った死神が目の前に現れて言ったのなら、びびるかも。ましてや天瀬は小学生なのだ。

「他に何か言ってなかったか。僕が耳にした噂では、ハイネっていう固有名詞みたいなのが出ていたみたいだが」

「あっ、それがあった。ハイネは死神の名前です」

 やっぱりか。詩人の名前を持つ死神。死神しじん……これも神様お得意の駄洒落?

「死神に個別に名前があるなんて言い出すものだから、僕、ますますおとぎ話のように聞こえてしまって。あーあ、もっと真剣に聞いてあげればよかった」

 後悔することしきりの長谷井。私の言い方のせいで、追い込んでしまったか? そんなつもりはまったくなかったんだが、ま、ちょっとくらいは悩んでくれ。

「他には何かないかな。死神の他にも別の神様っぽいのが登場したとか」

 神内も一緒になって天瀬の夢に出て来たなんてことはまさかないとは思うけれども、念のために聞いておく。

「そう、それで思い出しました」

 電話を通しても何やら興奮した様子が伝わってきた。

「他にも登場人物がいたって、天瀬さん言ってました。男が二人。神様とは言わなかったし、特に断りはなかったから、人間の姿形をしてるんでしょう」

「二人の男、か」

 予想していなかった返事に、どう解釈すればいいのか戸惑う。

「その二人については、何て言っていた? 死神の仲間みたいな存在?」

「従者って表現を使っていたかと。正確な台詞じゃありませんけど、死神が『夢から覚めても逃れられたと思うな。おまえが隙を見せれば必ず見付ける。この男達が人間界で見張っているからな。そしていつでも魂を奪いに行ける』的なことを言ったらしいです。僕、それを聞いてて想像して、おかしくって。男の格好が一人は暴走族崩れで、もう一人は目が細くて蛇みたいな人だって言うもんだから。死神とはちぐはぐでしょ?」

 蛇みたいな顔立ちの人間なら、まあ死神に似つかわしいと言える余地はありそうだが、暴走族というのはちょっと、いやだいぶ合わないような。ドクロマークのイメージか? だいたい何をもって暴走族崩れだと言うんだろ? その点を長谷井に聞いてみた。

「天瀬さんが言うには、その男の首の周りに有刺鉄線みたいな花のタトゥーが入っていたんだそうです」

「有刺鉄線みたいな花? バラか?」

「恐らく、茨か何かだと思います。キリスト像の頭に被せてあるような」

「ふむ。その点だけを取り出せば、いわゆる神様のイメージと重ならなくはないな」

 そんな風に応じながら、頭の中では別のことを考えていた。茨のタトゥー、この表現を私は前にも聞いている。ちょっと記憶を振り返ってみると、たいして苦労せずに思い出せた。

 そこからの連想で、蛇っぽい容貌の男についても再度聞いてみる。

「長谷井君。天瀬さんはもう一人の男について、額が広いなんてことは言ってなかったか?」

「いや、覚えがないです。蛇ってだけで禿げ上がった感じは、僕が勝手に想像しましたけど」


 つづく

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