第207話 信じるタイプとは違うのか

 かもしれないを連発している辺り、動揺が出ているようだ。

 しかし、だ。もし本当に手遅れなんだとしたら、天の意志もあんな期待を持たせるような言い方はしないんじゃないか。最悪、一度は逃していたとしても、チャンスはまだ残っていると前向きに捉えていいように思う。正直、そうじゃなきゃやってられないってのもあるが。

「くよくよするな。終わったことだ。後悔先に立たずと言うだろう。今さらどうにもならないのだから、今後のことに目を向けるんだ」

「でも」

「それとも何か。わざわざ確かめたいのかい? 修学旅行のとき、実際にすれ違いだったのかどうか」

「そんなことできるわけ……」

「方法ならあるんじゃないか。何かの調査を装って九文寺家に電話を入れて、薫子さんの修学旅行先と時期を聞き出したらいいんだよ。そんな風に骨を折ってまでして、『ああやっぱりすれ違っていた! 気付かなかったなんて大失敗だ!』と悔しさを倍増させてみるか」

 この時代の九文寺家の電話番号が、六谷の知っている七年後の番号と一致しているのかどうかは不明であるが、例えばの話なので気にしなくてよいだろう。

「それはやめとく」

 子供らしからぬ自嘲の笑みを浮かべた六谷。どうやら立ち直ったか? 完全に元通りの精神状態とは行かなくても、前を向いてもらわないことにはこっちも手伝いようがない。

「次の機会を待とう。きっとあるから」

「うん、それしかないみたいだし。でも次の機会を待つったって、雲を掴むような話じゃないか? 本当に修学旅行が九文寺さんと会えるチャンスだったとしても、前もって気付きようはなかったわけで」

「確かに。だけど修学旅行の際にはそういう意識は頭になかったんだろう? 意識していれば、九文寺さんが近くにいることに気付いたのかもしれない。いや、可能性は高かったはずだ」

 多少強引にでも気持ちを盛り立てていこう。

「だからこれからは九文寺さんのことを常に念頭に置いて、意識していればいい。お互いの距離が近くなれば、きっと気付くさ」

「そんな超能力みたいないことを」

 子供の方がさめてるな~。

「でもまあ、彼女の顔を見れば小学生だろうと中学生だろうと分かる自信はある。とにかく、彼女が目の前に現れてくれないと話にならない」

「目の前に現れたとしても、そのあと具体的にどうすればいいというのはまだ手探り状態だがな」

「言われてみれば……『七年後に大きな地震が起きるので、安全な土地に避難するのを忘れないでね』なんてことを言ったって聞いてくれるはずがない」

 そう、普通は気味悪がられ、無視されるのがおちというもの。

 しかも六谷は以前、宮城の九文寺家に電話して、彼女を気味悪がらせている。そういう経験をしている相手に、怪しげな警告を与えてもともてじゃないが聞き入れられまい。下手をすると警察に通報されるかもしれない。

「今の内から作戦を立てておく必要がある」

「賛成」

「六谷君には何か策があるのかな? 今急に言われても難しいかもしれないけれども」

「どんな言い方をすれば信じてくれるか、考えてみてるんだけど」

 会話の途中からもう首を捻る六谷。

「絶望的に厳しい」

「そんなに疑り深い、慎重な性格なのか、九文寺さんは」

 だとしたら厄介だぞと思わずしかめ面になったが、六谷は頭を左右に振った。

「そうでもない。強いて言うなら、物事をポジティブに捉えるタイプっていうか。楽観主義とかプラス思考ってやつかもしれない。何が言いたいかっていうと、深刻な話でも明るく受け止めるんだよなあ」

「それはまた微妙だな。地震の話をしても、差し迫った脅威とは受け取らないかもしれないわけだ」

「うん、まあそんな感じ」

「じゃあ、オカルト的なことにはどんな立場を取る人なんだろう?」

「オカルトって、まさか先生、僕らの置かれている状況について九文寺さんに打ち明けるつもりじゃないよね」

「ああ。打ち明けはしない。今言ったオカルトは、運命とか占いとかおまじないといった、一部の女子が好きそうなことについてだよ」

「そういう意味か。だったら彼女も人並みに占いなんかは好きだと思う。本人が積極的に占うなんてことは滅多にしないけど、テレビや新聞、雑誌に載っている占いには関心を持って読んでいたっけな」

「だったら占いは信じる方なんだ?」

 光明が見えた気がした。占いに紛れさせる形で震災発生の情報を伝えれば効き目があるかもしれない。七年後まで記憶しているかどうかの問題はあるが。

「うーん、信じてるかって問われるとちょっと自信ない。女子の占い好きっていうのは、どこまで本気で信じてるんのか分からないところあると思わない?」

 早くも雲行きが怪しい。占いの類にそこそこ関心を持っているが、内容を全面的に信じるものでもないというスタンスは、考えてみればありふれている。もしかすると男女を問わず、大多数の日本人に当てはまるかもしれない。かくいう私自身、このタイプだと言えそうだ。神社に行っておみくじを引くけど、結果はさほど気にしないというタイプ。

 何にしろ、九文寺薫子が占いの形で震災の情報を得ても、話半分にしか受け取らないのであればこの計画は心許ないな。


 つづく

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