第2話 モノが違う!
がばっと音を立てて跳ね起きた。
「ここは……」
私は布団の中にいた。
トラックらしき大型の車に跳ねられて、「ああ、死んだ!」と覚悟したはずだが。
夢だったのか。
あの「助けて」とかいう声は何だったんだろう。全て夢なら解析することで深層心理が分かる……なんてことは信じない質なんだが、「天瀬美穂を助けて」のフレーズだけはさすがに気になる。
そういえば、頭痛が残っているからには昨晩、みんなと一緒に飲み食いしたのは夢ではなく現実のようだ。
とりあえず時刻を知ろうとして、携帯端末を探す。だが、服のどこをまさぐっても見当たらなかった。それ以前に、私はシャツにジャケットといういつもの出で立ちではなく、えんじ色のジャージを着ていた。いくら酔っ払っていたとしても、こんなダサい格好で寝るとは不覚だ。
改めて周囲を見回すと、見知らぬ部屋だった。アパートのようだ。壁や天井などは古色蒼然としていて一見古くさいが、意外ときれいに掃除がなされ、物もきちんと整理整頓が行き届いている。
覚えのないジャージに、知らない部屋……。帰りが遅くなるからってことで、友人の誰かの家に泊めてもらったのだろうか。
しかし、それにしては狭く、他に眠っている奴はいないし、起きて動いている人の気配もしない。だいたい、昨日は飲み食いの後、最終的に私の家に寄って、皆で夜明かしする予定だったはず。
「おっかしいな」
呟いた自分の声に、ぎょっとした。こんな変な声をしていたっけか? 乾燥した空気に寝ている間に喉をやられたのかもしれない。大事な結婚披露宴の前に、風邪でも引いて体調を崩しては洒落にならない。
私は布団を出て、洗面所を探した。たいして広くない一室だ、簡単に見付かった。
「うん?」
洗面台の前に立ち、鏡を見て違和感に襲われた。表現しづらいが、違和感という名のベールが、頭の上からぶわっと被さってきたような。
「なんか……」
自分の顔を手で撫でた。
(自分の顔って、こんなのだっけ?)
似ているけれどどこか変。最高レベルに難しい間違い探しみたいだ。久々に夜更かしして遊んだせいで、むくんだかな。
とりあえず、冷たい水で顔を洗って頭を覚醒。目もぱっちり開いた。
「……」
やっぱり、何か妙だ。
自分の顔のことだけじゃない。このアパートだって、昨日顔を合わせた友達にこんなところに住んでいる奴、いたっけか? さっきからずっと姿が見えないし。
何かおかしなことが起きちゃいないか。ニュースを得ようと、寝床に戻って、改めて携帯端末を探す。
だが、どうしても見付からない。昨日着ていたジャケットのポケットか、でなければズボンのポケットに無理矢理押し込むかしたはずなんだが。ジャケットとズボンすら見当たらない。今着ている冴えないジャージのポケットも探ったが、当然のようになかった。
そうする内に、不意に尿意をもよおしたので、トイレに向かう。先程洗面所を探したときにトイレも見付けてあった。
小便をしようとして、決定的におかしなことに気付いた。よく叫び出さずにおれたものだと、あとになって感心したくらいだ。
パンツが違う。私のではない。こんな白いブリーフ、小学生のときに穿いたきりだぞ。
それだけでも無茶苦茶気色悪いのだが、さらに上があった。
いくら驚いたからって小便は止まらないから、とにかくしようと、一物を出したところ、またまた違和感に襲われたのだ。今度という今度は、絶対に違う。私のモノではない、そう断言できる。
それでもどうにか事を済ませ、手を洗って元の寝床のある部屋に戻る。
一連のおかしな出来事について、考えてみた。
改造人間じゃあるまいが、寝ている間に手術された? 全身整形? それにしては原形を残していて、中途半端な……なんてばかなことを想像しながら、テレビのリモコンに手が伸びた。携帯端末が見当たらず、部屋にはパソコンもラジオもないようだ。なら、ニュースはテレビで観るしかない。
最初に入ったのは民放で、朝のワイドショーだ。日付と時刻が左上に出ている。
五月十一日の八時四十分。
「五月十一日!?」
ついに叫んでしまった。それだけ驚きがでかかった。目をこすって画面を見直すが、数字は変わらない。他のチャンネルも五月十一日だと主張している。
今日は七月七日、日曜のはずだが?
つづく
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