第21話 歩くような速さで②

 アルシノエは力の限り叫ぶ。

 ――ちょ

「お腹すいたのっ!!」

 ハルカナがびくりと動きを止めた。アルシノエもびっくりした。

 ハルカナを止めようと思って叫んだのに、口をついた言葉はアルシノエの本能から溢れ出たものだった。そのことに自分自身で驚いたが、いまさら気にしても仕方がない。

 だってお腹がすいたんだから。

 アルシノエはぴりぴり説く。

「あんね、出発も片付けもあとっ。まずは朝ごはんでしょお腹すいてんだからっ。とにかくごはん食べないと力も出ないし出発も片付けもできるわけないんだからねっ」

 見た目はアルシノエより年上のハルカナが、まるで幼子のようにしゅんとしてうなだれてている。

 そのハルカナが、アルシノエの、

「で? ハルカナさんはごはん作ったりはできるん?」

 という問いかけに、何か恐ろしい言葉でも聞いたかのように表情を変えた。

「……朝ごはん。知ってます、見たことあります。そういえばみんな食べてました。 ……でも作ったことないです」

「え? そうなん?」

 アルシノエもちょっと困ったように、

「……うちも作ったことないんだけど」

 そこからが大変だった。

 ハルカナが、作ったこともないくせに自分が作りますとか言い出して、大丈夫なの? とアルシノエが不安げな目を向けると作り方は知ってますのでっ、とひとつも安心できない自信を漲らせた。それから、たいていのものはレンジでチンッでできるのですっ、などとわけのわからんことを言い出したところでアルシノエはハルカナひとりに任せることを諦め、二人で協力して作ることにした。そもそもれんじってなに?

 火をつけるのも一苦労だった。

 アルシノエが着火装置を探してくる間に薪を組むのをハルカナに頼んで、荷車のあちこちを引っくり返してようやく模造品のオイル式着火装置を見つけて戻ってみると、小屋みたいなのが出来ていた。どんだけ燃やす気なのとアルシノエが怒ると、ハルカナはあわあわになってすいませんつい夢中になってしまってと言い訳した。そのくせ崩そうとするとちょっと悲しそうな顔をするハルカナをアルシノエは無慈悲に無視して十分の一くらいにして、ようやく火を起こせた。

 難しい調理は諦めた。アルシノエもやったことなかったし空腹が限界だったし色々と時間が掛かりすぎたし面倒くさかったから。とりあえず干し肉でも焼いて食べようとアルシノエが言うとハルカナが肉の塊丸ごと火にかけようとしたので慌てて止めた。食べる分だけ切り分けるのだと説明すると今度は元気よく頷いて腰の剣で切ろうとしやがるのでアルシノエは必死になって取りすがった。その剣がよく切れるのは知ってるから。でもファイバを切った剣で食べ物を切らないでお願いだから。

 一歩進んでは立ち止まるような作業行程。

 結局、アルシノエが朝ごはんにありつけたのは、朝と呼べる時間をずいぶんと過ぎてからだった。

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