第7話 鉄砂漠④
見ると、隣のガルバは背中に担いだサボットスラグ銃を肩から外して戦闘準備を始めていた。
それを見てようやく、アルシノエも自分がサボットスラグ銃を持っていることを思い出した。音を立てないよう人生最大の注意を払いながら肩にかけていたサボットスラグ銃を外し、弾を確認し、構える。
服を引っ張られた。
口から心臓が飛び出しそうなほど驚いた。
すぐ横にいたスラだった。
驚かさないでよ叫びそうになったじゃない、という抗議の目でアルシノエは睨み返す。
スラは今にも泣き出しそうな顔で、アルシノエの抗議なんか微塵も気にかけずに囁きかけてくる。
(……も、もしかして戦う気……?)
(……あんたこのまま黙って殺されてもいいわけ?)
そう言い返したのは、ほとんど条件反射みたいなものだった。
アムポが即座に反対の声を上げる。
(……ムリムリ! ムリだって! 逃げるしかないって!)
情けないかもしれないが現実にはアムポの言う通りで、アルシノエだって出来ることなら逃げ出したい。しかしおそらく、いや多分確実に、というか絶対、奴らはそうさせてはくれないだろう。
(……聞いたことある)
そう切り出したのはレウコだった。
(……ファイバの見張り役はすぐには襲ってこないんだって。音も電波も出さずにじっと潜んで、縄張りに入ってきた奴らが逃げられないように奥深くまで引き込んで、周囲を取り囲んでから、一斉に襲い掛かってくるって)
ぞっとした。聞かなきゃよかったとアルシノエは後悔した。まさに今の状況そのものではないか。わかっていたことだが、こうして改めて今の状況を口にされると、それは絶望以外の何物でもなかった。
アムポが真っ青な顔をして小声で騒ぎ立てる。
(……やばい、やばいって、おれらどうする? どうしたらいいん?)
(……ねえ、それよりもまずくないかな。これみんなに知らせないと。大人の人は探索してるし、停泊地もこの近くだし……)
スラの言葉にみんなはっとした。自分たちもこれ以上ないほどの危機的状況だが、それはそのまま、集団全体と地続きなっていることに今更ながら気づいた。あろう事か、アルシノエたちのアイルはファイバの巣の間近でのんびりと停泊していたのだ。
(……なんとしてでもこっから脱出する。生きて帰って、みんなにファイバがいるって伝えなきゃなんねえ……!)
ガルバが視線を周囲から外さないまま、力強く呟く。その表情には何らかの決心か覚悟が見て取れた。もしかしたら、みんなをここに連れてきてしまった責任を感じているのかもしれなかった。
生きて帰る。
いまや、この上なく現実感のない言葉のようにアルシノエには感じられた。ほんの数時間前までの日常が、今となっては夢のようにしか思えない。あそこへは二度と戻れないんじゃないかという気がしてならない。ここから、みんなのいる停泊地までの道のりを想像するだに恐ろしい。ほんの数十分という距離が今は死ぬほど長く感じる。瓦礫と鉄屑に埋め尽くされた鉄砂漠の中を、死への恐怖とファイバの影に怯えながら戻らなければならないのだ。絶望しか感じなかった。どう考えても無理だと思った。涙が溢れた。泣いているなんて思われたくなかったから、誰とも視線を合わせないよう周りを警戒しながら、こっそりと目元を袖で拭った。
ガルバが盗人のような慎重さで立ち上がる。
(……よし、いくぞ……!)
アムポが単車にしがみつきながら蚊の鳴くような声で、
(……単車に乗ってかないのか……?)
(……バカッ、そんなことしたらエンジン音で一発で居場所がバレるだろうが……っ)
ガルバにあっさりと切り捨てられて、アムポは泣きそうな顔をする。
その気持ちはアルシノエにも痛いほどわかるが、そうも言っていられない。
正直、立ち上がる動作でさえどこかにいるであろうファイバを刺激しそうで怖かったが、このままここにいたところで状況は悪くなる一方なのは火を見るより明らかだ。
選択の余地など最初からないのだ。
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