第4話 鉄砂漠①

 来ないほうがいいんじゃないか、と言われて素直に従うアルシノエではなかった。

 あんたたちだけでなにができるの、と言い返し、この中でいちばん撃つのがうまいのはうちなんだからね、と納得させ、人数多いほうがいいでしょいろいろと、と最後にはうまくまとめて、サボットスラグ銃をひとつ引っつかんでガルバたちについていった。

 どっちにしろ、停泊地に残っていてもまだ半人前のアルシノエにできる仕事はあまりない。あるとしても、道具の手入れだとか、自分よりも小さい子供のお守りだとか、見るからに面倒くさそうな雑用とか、アルシノエにとっては退屈に感じることばかり。そんなことはできればしたくない。アルシノエは早く父や兄のような一人前のシーカーになりたかった。そして、父や兄と一緒に「島」へ探索に出かけて、なにかすごい旧時代の遺物を発見するのだ。しかし、この前その話をみんなにしたら、まだ二年は早いと言われた。二年なんて、アルシノエにとっては想像もできない長さだ。何回寝ればいいんだろう。

 ここ最近の探索が空振り続きだったこともまずかった。ひと月ほど前に「八重船」の街を出てから、今のところどの「島」からもまともな遺物ひとつ発見できていないし、新しい「島」の情報なんて滅多にない。シーカーは遺物を探し出して売るのが生業だ。なのに価値のありそうな遺物ひとつ見つけられなかったら、このまま次の街へ行ったところで売る物がない。何も売ることができなければ食料を買うことさえできない。アルシノエたちの家族団アイルは中型履帯船八隻程度の小規模のものとはいえ、このままでは一週間と待たずに自分たちが遺物になっちまう。困ったもんだ。と大人たちが話していた。アルシノエもそんなのはいやだ、と思った。

 今も大人のシーカーたちはみんな「島」を探しに鉄砂漠へと出払っていた。

 残っているのは、女と、年端も行かない子供と、一人前のシーカーに憧れるそれより年上の子供たちだけだった。

 行くとしたら自分たちをおいて他にいない、とアルシノエはそのとき思ったのだった。



◇◇



 シーカーは目がいい。

 そんな言葉をたまに耳にするが、それは逆だとアルシノエは思う。

 目がいいシーカーしか生き残れないのだ。奴らが潜むこの鉄砂漠では。

 少なくとも、見つけられるより先に見つけることができる程度の視力がなければ。

 かくいうアルシノエも目はいい方だと自分では思っている。証拠ならある。街や「島」を見つけるのも早いし、大人たちだって目だけはいいといつも褒めてくれている。――なんだかちょっと引っ掛かる言い方だけれど。

 そのアルシノエが目を凝らしてみても、鉄砂漠には本当に何もない。資源にもならない真っ赤に錆びた鉄屑と原型の影も形もない瓦礫に埋もれた世界が呆れ果てるほどどこまでも続いている。この無限とも思える量の瓦礫と鉄屑が、かつてはこの星の大地のほぼ全てを覆い尽くしていた積層都市の成れの果てだなんて、アルシノエにとってはほとんどおとぎ話も同然である。

 見上げれば分厚い塵で白く濁った空が太陽の光さえ淡く遮っている。青い空なんてアルシノエは数えるほどしか見たことがない。

 この景色に変化があるとすれば、勘違いのように崩れるのを免れた旧時代の積層都市跡の「島」がある程度だ。

 アルシノエたちが今探しているのも、そういった未だ手付かずの「島」だった。

 オレたちも「島」探しに行こうぜ、そう言い出したのはやっぱりガルバで、彼らが何かをしでかすときは大体いつもこうやって始まる。その一言に乗せられて停泊地に停まっている船団をこっそり抜け出したのはアルシノエを含めて全部で六人。ガルバとアルシノエの他にスラ、アムポ、レウコ、ナシカという、大人たちからはよく「いつもの」と言われている面子だ。その「いつもの」という言葉の響きには、どちらかというと「困った」とか「仕方のない」とかいったような意味合いが強いのが、彼らのまとめ役を勝手に自負しているアルシノエには少々気に入らなかったりする。

 言い出しっぺだけあって、先頭を行くのはガルバだ。単車の扱いも手馴れたものだが、そのすぐ後ろに続くアルシノエも負けてはいない。二台に分かれた残りの四人は遅れがちだ。

 長すぎて誰もが単車というが正式にはそれは車輪付き単線履帯といって、一本の履帯に座席と操縦桿とぶっとい車輪をひとつくっつけただけの実に単純な構造をした乗り物だ。しかしこの無限に続くかのような瓦礫と鉄屑の世界ではとても重要なもので、これを乗りこなせてシーカーは一人前だと言われるくらいだし、そう簡単には触らせてもらえるものでもない。

 ないはずなのだが、ではなぜ今ここに四台もあるのかというと当然拝借してきたのだ。もちろん無断で。バレたらまずいとアルシノエも思うが、同時にバレる前に返せば大丈夫なんじゃないかな、とも思っていたりする。このへんがやっぱり「いつもの」六人の一員なのだろう。アルシノエもガルバも大人のシーカーと遜色ないほどに単車を扱えるのも勝手に持ち出して乗り回すということを日常的にやってきた賜物だったし、変化の乏しいシーカーの旅路においては、アルシノエたちの格好の遊びなのだった。こうして操縦桿を握り、瓦礫と鉄屑を掻き分けながらいくつもの鉄砂漠のうねりを乗り越えていくだけでも自分も一人前のシーカーになったような気がして、アルシノエは訳もなくくるくると踊り出したくなるような気分になるのだ。

 ――いけないけない。

 アルシノエは楽しさに緩みがちになっていた口元をん、と引き締めた。アルシノエはみんなのまとめ役なんだから、ちゃんとしなきゃ。

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