東堂兄弟の探偵録〜第三話 蛇つかい座のドール〜

涼森巳王(東堂薫)

プロローグ

プロローグ



 蒼人が自分の才能に気づいたのは、小学二年のときだった。


 図工の時間だ。

 紙ねんどで、となりの席のお友だちを作りましょうと、担任の先生が言った。


 蒼人のとなりは近所の仲よし。

 保育園から、いっしょの、蘭蘭ちゃんだ。


 蘭が二つで、らら。

 いま思うと、パンダっぽい名前だが、目のパッチリした、お人形みたいな女の子だった。パンダっぽいところと言えば、肌の白さと黒髪の配色くらい。


「うちのこと、かわいく作ってくれな、あかんよ」

「う……うん」


 大きくなったら、この子と結婚したいなと思っていた女の子だ。そう言われれば、がんばらないわけにはいかなかった。


 小さいころから手先は器用だった。それにしても、できあがったものは、われながら上出来だった。


 ほかの子たちの作品といえば、どれもこれも、バロック真珠みたいな頭に、円筒の胴体。棒状の手足がついていれば御の字。ましてや顔なんて、友だちに似せる以前の問題だ。そもそも小二の子どもには、土台、ムリな課題だった。


 そんななかで、蒼人の作った蘭蘭ちゃん人形は傑出していた。目鼻の数があってるとか、バランスが整っている以上の出来栄え。ちゃんと、蘭蘭ちゃんに見えた。


「わあっ、すっごーい! めっちゃカワイイやん」

「ほんまや。ええなあ。蘭蘭ちゃん」


 女の子たちが集まって、さわぎだす。その中心で、蘭蘭ちゃんは得意満面だ。


「ねえ、そうちゃん。ここにリボンつけて」

「うん」


 頭にリボンをつけると、蘭蘭ちゃんは笑った。

 みごとな三幕物の歌劇をひろうし、かっさいをあびる、おかかえ作曲家を見る女王のように。


「そうちゃん。この人形、うちに、ちょうだい」

「うん。じゃあ、学期末に」

「指切りげんまん」


 けれど、その約束が守られることはなかった。蘭蘭ちゃんは冬休みが来る前に、天国へ行ってしまったから……。

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