第27話 政治家を目指す人の話

四人の人物が政治家を目指していた。


一人は正直者で、頭が悪かった。

一人は正直者で、頭が良かった。

一人は嘘つきで、頭が悪かった。

一人は嘘つきで、頭が良かった。


四人は選挙を戦った。

そこで市民の支持を得るために、公約を作ることになった。


頭が悪い正直者は「できないことはできない」と言い

できそうだと思うことの公約を書いた。

頭が良い正直者は「可能な限り努力する」と言い

できるか不安なことは努力目標として盛り込んだ。

頭が悪い嘘つきは「私なら何でもできる」と言い

市民の理想通りの公約を書いた。

頭が良い嘘つきは「嘘には真実を混ぜるモノだ」と言い

理想の公約と実現の目処が立っている内容を半々に書いた。


四人のうち、三人はめでたく選挙で当選して政治家になった。

頭が悪い正直者は、市民から期待されなかったので落選した。


政治家になった三人は、党に入って活動を始めた。

ある時、国会で大臣に質問する機会を得た。


頭が良い正直者は「規則通りにやる」と言い

建設的な質問と回答を引き出した。

頭が悪い嘘つきは「どんな方法を使っても足を引っ張ってやる」と言い

事前通達していない質問をしたり、議題と関係の無い漢字クイズを行った。

頭が良い嘘つきは「自分が嘘を吐かずとも他人は騙せる」と言い

故意に相手を怒らせ、失言を引き出して失脚させた。


三人のうち、二人が党内で評価されるようになった。

頭が良い正直者は、その質問によって敵対する政党の案を改善してしまうため

「議席を増やせない」と言われて、評価されなかった。


政治家として活動を続けた二人は、満期を迎えて公約の達成度を評価された。


頭が悪い嘘つきの達成度は0%だった。

頭が悪い嘘つきは「敵の妨害を受けたのだ」と言い訳した。


頭が良い嘘つきの達成度は50%だった。

頭が良い嘘つきは「残りをやり切るために再選させてほしい」と言い訳した。


市民には、彼らの頭の良し悪しも、嘘つきかどうかもわからないので

「二人とも正しいことを言っている」

「正直者だ」

「きっと次はやってくれる」

と言った。


そうして二人のうち、二人とも政治家を続けている。


二人とも正しく聞こえることを言う。

しかし、言ったことの半分だけでも実現させているのは

二人のうち、一人だけである。



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