第25話 関係ない人が怒る話

男女二人が話し合っている。

女が言う。


「あなたとの関係を考え直したいの」

「なぜだい? 俺たち上手くいってただろ?」


努めてにこやかに話す男に、女は睨みを利かせて言った。

「浮気してたでしょ?」

「そんなことしてないよ」


「嘘」

「本当だよ」

「なら、ちゃんと説明してよ」

「何を説明すればいいの? なんでも答えるよ」


「あなたに渡した10万円、何に使ったの?」

「何度も説明したじゃないか」

「帳尻が合わないから聞いてるのよ」


「だから、家賃と光熱費と保険料だよ。ちゃんと来月には返すって」

「それ、全部足しても7万円だよね?」


男の目が泳いだ。女は追求を続ける。

「他の女に渡してるんじゃないの?」

「どこにそんな証拠があるんだ? 言いがかりだよ」

「なら、何に使ったか言ってよ」

「それは……」


男が言い淀んでいると別の女が現れた。

「自分の彼氏を疑うなんて、あなた酷いじゃない!」

「いきなりなんですか? あなた」

「いえ、通りがかっただけです」

「え? 関係ないですよね?」

「あ、はい。関係ないです。でも酷いですよ!」


恋人を問い詰めていた女には、

この突然現れた女が何者か察しがついていた。

恋人同士の喧嘩に関係ないのに首を突っ込む人間など、

それで損得が発生する者しかいない。


もしかすると、正義感が強くて

口を出さずにいられない人なのかも知れないが、

それなら男の目が泳ぎ続けていることの説明がつかない。


ヒステリックに喚く乱入者を無視して、女は男に言った。

「いい加減、認めたらどうなの?」

「……知らない」

「そう、なら関係を考え直しましょう」


男はオロオロとするばかりである。

そんな男に、女は言った。

「次にお金を借りるときは、何に使うのか明細を先に出してね」


結局、彼女はこの男から離れる気がないらしい。

男と乱入者は、これだけ都合のいい話にも関わらず

不満そうな顔をしていた。



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